バリ島駐在記「ヒンドゥー教徒のバリ島への大量移住」

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バリ島

 バリ島に関する書籍は日本のみならず、西欧でも多く出回っている。本特集では、あまり知られていないバリ島を紹介することに徹するつもり。

 バリ島という島は元々現在のバリ人が居住していた島ではない。 かつては「バリアガ」と呼ばれる原住民が人口は僅かながら、島のあちこちに散在するように居住していた。

 現在「バリ人」と呼称される人々は13世紀から16世紀にかけてインドネシア、ジャワ島を支配していたマジャパイト王国の末裔である。13世紀以前は仏教が支配的だったが、インドから伝わったヒンドゥー教に帰依した人々が仏教徒をしりぞけ、居座り、14世紀に爛熟期を迎えた。東ジャワのジョグジャカルタに存在する「ボロブドゥール」遺跡は仏教徒が建造したもの。むろん、ヒンドゥー教徒が造った建造物、チャンディーブンタールも付近に存在するが、崩壊から再構築されぬまま放置されている。

 15世紀に入って、イスラム教が急激に台頭、マジャパイト王国に侵入、ヒンドゥー教徒は難を逃れ、バリ島に大量逃避、移住した。

 その折り、バリの原住民であるバリアガは島の僻地へと追われ、現在彼らが住む地域として二箇所が知られている。一箇所はキンタマー二の展望台の下に見えるバトゥール湖の対岸に、山を背に存在するトゥルニャン(風葬で有名)という地域、むかしは船以外では行けないような要害の地だった。

 もう一箇所はバリ島東のチャンディダサの近くにあるトゥンガナンで、「カンベン・グリンシン」と呼ばれる縦横に糸を通してつくるダブル・イカットで有名な村。

 トゥルニャンが要害の地にあるのに比し、トゥンガナンは幅250メートル、奥行き500メートルという長方形の塀で居住区を囲い込み、これが新旧二つあって、いずれも隔離された形で村を形成している。かれらが選んだ地からも、形からも、ジャワから避難してきたヒンドゥー教徒との交流を好まなかった歴史が窺える。

 以降、元来のヒンドゥー教がバリアガのアニミズム(自然を崇める原始宗教)と合体し、変容して、バリヒンドゥーが形成された。ために、バリヒンドゥーにはインドヒンドゥーとの相似のものも多いが、島内最高の海抜を誇るアグン山(3,100Mを越える)を信仰対象にするなど、インドヒンドゥーとはニュアンスの異なる宗教と化した。また、カースト制度もきわめて希薄な形でしか残っていない。

 マジャパイト崩壊後バリ島へ移住した人々のなかから、バリアガ宗教との合体の過程を踏みながら、島を分割する形で支配者が出現、王国が幾つも形成され、時の経過とともに盛衰をくりかえし、インドネシアが独立を果たして以後、王国そのものが認知されなくなった。ただ、元王族の子孫が、人柄によるが、現在でも人々の尊敬を集めることはある。

 カーストが多少でも影響力をもつのは葬儀の仕方で、基本的に火葬だが、王族の子孫なら遺体を安置する張りぼての棺がドラゴンの形だったり、ライオンの形だったりすることが許容され、僧侶の場合には白い牛、一般の人々は黒い牛の形が使われる。

 まともな棺を造るための資金のない人は金持ち家族に死者が出るのを待つか、火葬すべき遺体の数がそろうまで待って、合同葬儀を行う。それまでは共同墓地に埋めておき、遺体はそのままにして、土だけ布で包んで焼く。

 ウブドの合同葬儀はいまや観光化され、その日をあらかじめチェックして島を訪れる観光客もいて、見物人はときに外国人だけで1千人を越える。バリヒンドゥーの葬儀は賑やかでなければならず、泣いてはいけないしきたりがあるので、外国からの見物客は歓迎される。また、外国人見物客が多くなって以降、葬儀のありようにも変容が起こり、一層派手になり、「見せる葬儀」になった。「見せる」という意味では、オランダが支配していた時代、オランダ本国でバリを分割統治する王の一人が逝去したとき、その葬儀を見せることを目的に船舶を使ったバリへの旅を募集したことが資料に残っている。

 バリ島に移住した人々のなかには芸術家、細工師、画家などが含まれ、それぞれが同じ一角を占め、地域ごとに銀細工店、絵画店、木彫店、石像店、ガムラン製造所、竹細工店、バティック店などが集合して、客を呼び寄せることに成功している。ただ、細工仕事は、いずれかといえばジャワ人の方が手先も器用で丁寧な仕事をするから、品物によってはジャワから取り寄せている店も少なからずある。

 観光客で賑わい、ためにテロの対象となったクタ地区に並ぶ店舗の大半はジャワ人がバリ人から店を借りて商売をしているケースが圧倒的に多く、オーナーはテナント料をもらっている。

 先年、東ティモール(旧宗主国はポルトガル)が独立を果たしたが、日本でも扇子に使われた白檀の生産地であったため、バリの木彫にも頻繁に使われていたが、現在は輸入に頼らざるを得ず、値段が高くなっている。同じ白檀でもそれぞれ芳香が異なり、香りのよいものからA、B、Cとランク付けがなされる。現在、木材のなかで最も高価なのが白檀で、次いで黒檀、紫檀と続く。黒檀は日本の家庭で位牌に使われるケースが多い。

 ものの本によれば、白檀はインド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、ハワイなどでも採れるらしいが、ニュージーランドー、フィジー、ハワイ産の白檀には香りがほとんどなく、インドのマイソール地方産のものが最高品質を誇るものの、輸出は禁止されているという。


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