バリ島駐在記「バイクが多い交通事情と交通事故」

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インドネシアのバイク事情

 バリに限らず、インドネシア全地域では、ほとんどの人がバイクを利用して通勤している。ジャカルタ、スラバヤなど大都市はいうにおよばず、バリ島のデンパサールでも、バイクの走る数は半端でなく、交通事故の大半にはバイクがからむ。

 バイクではなく、四輪の乗用車を使っているのは、現地人なら金持ち、あとは外国人居住者の一部か、華僑くらいなもの。ことに、華僑はインドネシア政府から公務員になることを禁じられており、そのため経済にだけ邁進、結果的にかれらの情報網と結束を利用し、あわせて応分の賄賂を権力者に供与しつつ、て巨万の富を築いている例が少なくない。そのうえ、華僑が信仰する宗教は、ほとんどの場合、仏教よりもキリスト教が多い。

 ために、世情が騒然とし、荒れた状況に陥ると、現地人の矛先はキリスト教会や華僑そのものに向かう。万が一、華僑の乗った車が現地人の子供でも轢き殺した場合、村人が全員出てきて、華僑を引きずりだし、半殺しの目に遭わせる。そういう例を、私は華僑自身の口から聞いた。

 もっとも、同じバリ人であっても、自分が生まれ育った村ならいざ知らず、知らぬ村で誤って人を轢き殺した場合、バリ人運転手でも被害者を放置したまま、身の安全を目的に、最寄のポリスボックスに一目散に逃避をはかる。警察官を介入させることで、身の安全を確保しようとの気持ちであり、そのことは警察官も諒解している。

 そうした事情があるため、現地で働くためのビザを持った外国人労働者は車と運転手の両方を供与され、自分で運転することを禁じられるケースが少なくない。外国人でみずから車を運転するのは、居住歴が長く、インドネシア語が話せ、現地の交通事情に通暁している人間か、現地のこうした事情を知らない観光客がレンタカーする場合だけである。

 世界の先進国には「国際免許証に関するジュネーブ条約」というものがあり、互いに、本国のライセンスを持っているかぎり、条約を批准した国同士、相互に車の運転を認めあっているが、後進の国のライセンスは海外で通用しないのが普通。それには、交通に関するルールそのものが基本的に違うという、一種、救いがたい隘路があることに原因がある。

 たとえば、インドネシアでは直進車が必ずしも優先されず、また直進する場合にはハザードランプを点灯するなど、信じられないルールが存在する。いわば、ハザードランプが本来のハザードを意味するケースでは使われていないのだ。また、ウィンカーを使わずに左右に曲がる車、ウィンカーを点灯したまま走っている車など、交通ルール無視というより注意力散漫な姿勢を目にすることもしばしば。神経質な日本人には耐えられない情景を目撃することにもなる。

 そのうえに、大量のバイクが乗用車の前後左右を取り巻くようにして動いている。バイクの運転者の頭には必ずヘルメットが載っているが、日本で使われているようなグラスファイバー製ではなく、ただのプラスチック製で、転倒したり衝突して、頭をぶつければ、必ずひびや割れ目が入ってしまうという安物。さらに、儀式のある日などは、ヘルメット着用の義務すらなく、儀式用のデスタール(鉢巻状のもの)をしていればOKという、先進国ではあり得ないルールもある。はじめてバリを訪れる外国人がこの地で運転することには、かなりのリスクが存在することは自明。

 さらに、バリ島では犬を放し飼いにする。バイパスなどで車に轢かれた犬の死骸を目にすることも稀ではない。朝、死体がころがっていても、夕方にはペチャンコになっており、翌朝には骨の欠片が残っているという、誰も犬の死骸を処理しないこともある。

 インシュアランス(保険)が先進国並みに充実していないことも事実。人身事故を起こしても、支払われる最大保証金額は日本円で4万円前後というお粗末さだ。

 にも拘わらず、デンパサールの繁華街には「レンタカー」の看板を掲げた店があちこちにある。バリは観光地であるがゆえに、特例が認められ、出身国の運転免許を見せることができれば、レンタカーのスタッフとともに警察に赴き、短期間だけ通用するライセンスを約2千円で発給してもらえる仕組みになっている。

 バリも日本も左側通行だという点では安心感はあるけれども、日本人を扱うどの旅行業者もお客さんにレンタカーすることを勧めることは絶対にない。万が一のことが起こった場合、それが生死に直結することを熟知しているからだ。

 インドネシアを走っているバイクは、普通乗用車を含め、ほとんど日本製だが、かれらはローンで買っているから、しばしば途中で支払いができず、バイクを取り上げられるという実態があり、取り上げられた中古車はデンパサールの市場で安く売られている。

 小さなバイクに二人の子共を挟み、一番後方に妻が乗って、夫が運転する様は、危険きわまりない光景ではあるが、「壮観の一語」でもある。

 

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