バリ島駐在記「大トカゲ」

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大トカゲ

 初めて、バリに赴任、デンパサールのヌサドアでゴルフをしたときのこと、7ホール終わって、8ホール目に至ったとき、目の前に大トカゲが不意に出現、仰天しつつも、爬虫類にことさらの関心(といっても、「きもい」という気持ちが原点)をもつ私は、アイアンを片手に近づいていった。ところが、相手のトカゲは人間が怖いらしく、そばにあった池のなかに飛び込み、逃げてしまった。

 それ以後、ゴルフ場に行くたびに、私の目は知らぬうちに大トカゲの姿を追い、見つけると、黙っていられず、同伴者に「おい、いたぞ。フェアウェイのどまんなかを歩いていやがる」と告げると、「気持ち悪いですね。避けて通りましょう」などと言うので、私は同伴者の言葉を無視、黙ってカートのアクセルを足で押し込み、トカゲが右に逃げても左に逃げても、必ず轢いてやるといった気持ちで、そろりそろりと接近をはかる。

 くだんのトカゲは私たちのカートが次第に近づいてくるのを注視しながら、どう逃げるかを思案している様子。

 かなり接近したところで、思い切りアクセルを踏み込み、せめて大トカゲの尻尾でも踏みつけてやろうと、追跡すると、大トカゲは思ってもみなかった方向へ猛烈な勢いで走り、カートが尻尾を踏む寸前で、沼地に飛び込んでしまった。以来、どんなに努力しても、捕獲はおろか、尾を踏んだことすらない。

 一度など、池に逃げ込ませないように池側から追ってみたところ、ブッシュのなかに飛びこんだ。とたんに、野犬が慌てきって吠える声が聞こえ、犬はブッシュのなかで太陽光を避けて昼寝をしていたことを知ったが、いきなりの珍客に犬も驚いただろうし、大トカゲも驚いたであろう。

 「大トカゲを食ってみたい」 私のそういうリクェストに応えてくれたのは、華僑のレストラン経営者である。彼が経営するレストランの近くに川があり、野生の大トカゲが生息しているから、簡単に捕まえることができるという。「捕まえ方は、ロープを樹木に縛り、ロープの先に大きな針をつけ、そこに腐った卵や、犬か、豚の肉をつけて、一晩置けば、ほとんど必ず釣れる」という。「釣る」という話に、こういうのも釣るっていうんだと妙に感心。

 ある日、「釣れたそうです」という同僚、M君の報告を聞き、その夜、華僑の経営するレストランに赴いた。

 まず出されたのは、大トカゲの肉入りのスープ、これは胡椒を効かせても、臭気が強くて、とても食えたシロモノではない。ところが、次に「これはどうだ」といって出されたのは、バリやインドネシアで一般的なサテ(日本の焼き鳥と同じスタイル)、肉は硬いが、さすがに架橋の料理人、胡椒、塩、唐辛子といった調味料を使うことでトカゲ独特の臭気を上手に消してあり、肉はしこしこして決して不味くはない。私は大トカゲの肉を「いける」と思いつつ食えたことに満足、かつ感激した。

 ただ、味は鳥の肉に似ていて、「鳥はかつて爬虫類から進化した動物」という学説をおぼろげながらに納得させられた。

 私の同僚、M君はその店のオーナーに向かい「この大トカゲの皮はとってあるんだろ? それ剥製にして、おれにくれないか」と、この人も爬虫類が嫌いではないらしい。それどころか、M君はコモドという大トカゲよりはるかに獰猛な、ドラゴンが生息するコモド島まで3度も出かけて行き、世界一大きなトカゲ(体長4メートルはある)を観光の目玉にしようと本社にかけあっている。

 そのコモド・ドラゴンが英国の動物園で飼われているが、このトカゲが「単為生殖」であり、オスとの交尾なしに産卵し、孵化し、子が生まれるとの情報(朝日新聞)を知って、驚いたが、昆虫動物では珍しくはないが、脊椎動物では稀な例で、蛇類では70種にそうした例があることが報告されているらしい。

 私はスラバヤの動物園に行ったとき、「金を払うから、おれの見ている前で、生きている鶏をコモド・ドラゴンのいる檻のなかに放してみてくれないか」と、残酷シーンを期待して、請うてみたが、それはダメだという。「お客さんが見ている前で、鶏の肉をエサとして与えるだけなら、できる」というので、それをやってもらったが、迫力不足で、コモド・ドラゴンに固執することはやめた。

 大トカゲのことは、インドネシア語で「Biawak」(ビワワッ)、バリ語で「Alu」(アルー)というが、普段は水のなかに蛙や魚を追ってエサにし、ときには陸上に飼われているアヒル、鶏などを襲って食べてしまう。基本的に、水のそばが生息地だが、マングローブのなかにいて、自動車などに轢かれた犬や猫の死体に群がる様子を目にすることもある。

 私は爬虫類には格別の関心があり、「気持ち悪いもの見たさ」という心理があって、外国に出かけると、時間に余裕があるかぎり、動物園に行き、まっすぐ「爬虫類だけが置かれている場所」に直行、アナコンダ、ボア、サンゴヘビ、ガラガラヘビ、にしきヘビ、グリーンスネーク(なかには針金みたいに細いやつもいる)などなどを見ては、爬虫類以外には一切目を向けずに帰ってくる。「あぁ気持ち悪かった」というのが私にとってはストレス解消にもなるのだ。

 ワニの肉も、亀の肉も食ったことがあるが、臭気が強いか否かは、種類によって違うし、賞味料によっても違うようだ。私の弟はヘビが大好き、子供のころからヘビを見つけると、木の棒の先をY字型にし、その先でヘビの首を抑えてしまい、南京袋のなかに入れてしまう。それを自宅に持って帰ってくることに、私は困り果て、「田んぼに返すよう」説得したものだが、赤蛙を解体し、脚の部分だけを焼き、醤油味で食わせてくれたのは弟だった。大トカゲよりは美味だった気がする。

 「大トカゲ」と一口でいうが、生息する地域は東南アジアに広く分布し、種類にも幾つかあり、それぞれの生息地によって、表面の皮の色彩やデザインにも相違があり、性格にも多少の差があると仄聞する。また、体長は大きいものになると、尾の先から頭まで4メートルを超える個体もあり、インドネシアのほとんど全域に生息している。

 バリ島のレストランの窓から何気なく外を見た私の目に、ブロックの塀の上を歩くアルー(ちょうど上記写真のように)が映った。これが、ものの見事にでかい。頭から尾の先まで、4メートル近くはあるように見える。私はレストランの従業員、料理人を呼んで、「あれほどのサイズはまず見られないよ。目にできたことは幸運の一語だ」と薀蓄を傾けつつ、巨大な大トカゲとの遭遇に大感激。

 一般論だが、東南アジアでは、大トカゲの利用の仕方はほとんどが皮を剥ぐことで、皮革製品をつくるために、これを売ることに目的がある。ワニの皮ほどの値では売れないが、そこそこの小遣いになるのだとは、華僑の話だった。ふた昔まえ、シンガポールの市場で、大トカゲをぶつ切りにした肉を買っている主婦を見かけたときは仰天したものだ。おそらく、マレー半島やボルネオ島には同種のトカゲが生息しているだろう。

 かつて、サイパンの「グロット」というダイビングスポットの設けられた階段のところでも、ここ独特の色をした大トカゲを見たことがある。

 (上の写真は成長した大人、尾が長いため、頭から尾の先端まで3メートル以上ある)


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