バリ島駐在記「闘鶏」

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闘鶏1
闘鶏2
闘鶏3
(写真は軍鶏(しゃも)/最上段の写真は闘っている軍鶏)

 デンパサールとウブドを結ぶ道路から外れたところに小さな村があり、ひょんな機会から、その村で小作農業を営む一家と親しくなった。

 父親が30歳前後、母親が25歳前後、長女がマデという名で10歳、長男が8歳、次男が6歳という5人家族。長女のマデが賢そうで、そのうえ両眼がきらきら光っている。

 あるとき、父親が一尾のシャモの子供を両手に抱え、「こいつは悪くないんだ。旦那、買ってくれないか」と持ちかけてきた。同行した運転手のAgunが父親からシャモを受けとり、しばらく触れたりさすったりしていたが、「うん、悪くないね。これいいですよ」という。

 バリの男がシャモを左手で胸のあたりを抑え、右手で毛艶をよくする目的かどうか、愛撫する姿はしばしば目にしていた。

「いくらなんだ?」

 私はそれまで闘鶏とは無縁に過ごしてきたから、シャモに関しては全くの素人。

「3万ルピアで、どうかといってます」

 アグンが闘鶏(現地では「アド・アヤム」という)が好きで、2尾飼っていることは知っていた。

「あんたが飼育と訓練を請け負ってくれるなら、買ってもいい」

「ボスが買うんなら、わたしがしっかり面倒みますよ」

 その返事を聞くなり、私はポケットからルピア札を出して、父親に渡した。

 帰途、前出のパッサール・ブルン(鳥の市場)に寄り、シャモを入れておく籠を買った。

 シャモはもともと現在のタイが発祥の地、旧名をシャム王国といったが、そのシャムがシャモと訛って、わが国に伝わった。

 シャモは世界に広く分布しているが、闘鶏の盛んなのは発祥の地であるタイをはじめ、フィリピン、中南米、インドネシア、日本であり、日本では高知の闘鶏が最も有名(今でも盛んか否かは知らない)。

 この鶏には幾つもの血統があり、各地で、目的別に、ブリーダーによる品種改良がなされ、ファイターとして飼育、訓練される。

 体の特徴はどのシャモも(小軍鶏は別にして)、背丈があり、闘争心が強く、脚部に力があり、胸はややフラットながら、足が長くて跳躍力に抜きん出ている。毛の色は種々雑多、茶、白、青、赤、焦げ茶、斑、と文字通り色々。

「普通、シャモは大人になると4キロから4.5キロですが、このシャモはまだ2キロあるかないかという子共ですから、これから栄養をつけ、訓練をし、毛艶をよくして、いずれは大きな闘鶏の場に出したいですね」

「栄養っていったな。具体的に、シャモ用の栄養ってなんなんだ?」

「玉蜀黍や活きた虫、砕いた貝殻はむろんのこと、ビタミンも必須です」

「じゃ、月々けっこう金がかかるな」

 私はそう言いつつ、ルピア札をアグンに渡したが、話をしているうちに、ギャンブル好きの性格が抑えきれなくなってきたか、1匹の子共のシャモでは不足を感じた。

「これから、デンパサールに戻る途中で、もういっぺんパッサール・ブルンに寄ろう。あと2匹買う」

 アグンは呆気にとられた表情ながら、ボスが闘鶏に凝ってくれそうな雰囲気にまんざらでもない目つきで、さっそく車を動かした。

 パッサール・ブルンとは「パッサールが市場、ブルンが鳥のことだが、到着したとき、たまたま降雨があり、市場は閑散として、ほとんどの店は軍鶏を濡れないように屋内に移動させていて、外からは見えなかった。

 一軒の闘鶏用シャモを売る店に強引に入り、

「強いシャモをみせてくれ」

 と、いきなり当方の意図を開陳。

「よし、それなら、こいつはどうかね。こいつはこれまで全戦全勝ってシロモノでね、その代わり値段は安くはないよ」

 日本人と見て、甘くみている様子が手にとるように伝わってくる。とはいえ、見せられたシャモは真っ白で、そのうえサイズが桁違いに大きい。「欲しい」という気持ちが胸にあふれてくる。

「おれは日本人だが、バリにはもう長い。闘鶏のことも、シャモのことも、よーく知っている。今日のことだけじゃなくて、先のことまで考えて値段を考えたほうが、おまえさんにとっても損ではないぜ」

 私のインドネシア語を耳に、店主はにやりと笑い、

「じゃ、8万にしておくよ」

「いや、5万だな」

「ダメだ、8万以下にはならない」

 また始まったかと思いつつ、

「8万じゃ買う気はない。おい、アグン、ほかの店に行こう」

私はアグンを促し、店を出た。

「旦那、じゃ、7万にする、7万でいい」

 店主が追いかけるように、そう言う。

「決まった。6万だ」

 私はそう言うなり、1万ルピア札を6枚出して、店主に渡し、シャモを店主の手から奪うようにして、外に出た。

 さらに、この日、別の店にも寄り、店主が勧める小型のシャモを、外に出して別のシャモと闘わせてみた。抜群の跳躍力を示すシャモにほれ込み、これも入手、籠二つと一緒にアグンの家に運んだ。

「このでかいのは問題ですね」

 アグンが白いシャモを指しながら言う。

「どうして?」

「でかすぎて、相手になるシャモが簡単には見つからないでしょうから」

 確かに、白いシャモは5キロを超え、背も高く、傲然たる風情はファイターとしての烈しさを暗示しているように見えた。闘鶏はだいたい同じサイズのシャモ同士を闘わせることに決まっている。

(続編は次の「その24」へ)


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