あるキング/伊坂幸太郎著

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書評:ためいき色のブックレビュー-キング

  「あるキング」  伊坂幸太郎

  2008年4月より雑誌「本とも」に連載

  2009年8月31日 徳間書店より単行本初版  ¥1,200+税

  

 「奇を衒う」のも小説作法の一つであり、荒唐無稽であっても、それはそれで小説としての範疇を逸脱するものではないが、詩情が欠けているように思われる点が私には馴染めなかった。

 負けることに慣れきった地方球団を愛する両親に一人の男の子が誕生、「王求」(おうく)と命名したが、つまりは「球」という字をばらしたに過ぎず、「王になることを求める」あるいは「王になることを求められる」との意図が込められている。

 展開としては零歳から二十三歳まで、両親の熱烈な支援もあり、歳を追って少年の野球が上達し、爆発的なホームラン王になる過程を描きつつ、負けることに「慣れた」というより、「狎れた」球団を飛躍的に昇格することに貢献しながら、そのことがフアンの心を打ち、賞賛を浴びるという結果をもたらさず、複雑な人間心理が浮き彫りにされる内容には、鋭い人間洞察を感じさせるものがある。

 言葉を代えれば、弱小球団であるからこそ人々が愛したのであって、それが上位チームになることへの違和感というものが人々にわだかまりを、馴染めないものを感じさせ、素直に喜べない心理に繋がるということで、人間にはそうした側面が確かに存在し、小説としては鋭い点を衝いている。


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