いちばん危険なトイレといちばんの星空/石田ゆうすけ著

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「いちばん危険なトイレといちばんの星空」
石田ゆうすけ(1969年生/旅行エッセイスト)著
2005年実業の日本社より単行本初版
2010年7月10日 幻冬舎より文庫本初版  ¥600+税

 

 当初の予定は3年半の旅だったらしいが、自転車を使い、87か国をまるで地を這うように9万5千キロ走った結果、帰国したとき7年半が経っていたという、普通の環境にいる人にはいくら旅が好きでも、真似のできる旅ではない。

 私はまず自分が旅行屋であり、僻地が好きであり、時間さえあればできるだけ現地に脚を運び、対象物を自分の目で見ることを自分に課していた過去と比べつつ、本書に相対した。

 そういう自分の過去の旅の仕方に比べても、この著者の旅のスタイルは破格というべきか、破天荒というべきか、家族や仕事上の環境が許容し、治安上の幸運が伴っていてくれなかったら、実現は不可能という旅であり、だからこそ、言葉を超えた価値がこの著作にはある。

 正直いって、読み始めは、「もう少し文章力があったら、もう少し語彙が豊富だったら、もう少し展開に工夫があったら」と思わないではなかったが、読み進むうち、自転車による旅行であればこそ得られる人間関係、想像を超えた風景や危機、恐怖、食事などあったに違いなく、それが多少強引ながら、読み手を牽引していく強いパワーになっており、「世界一」というテーマを冠に載せた以上、時系列が無視され、あちこちの土地に飛んだり、戻ったりは仕方がないだろうと、併せて妥協させられた。

 老婆心ながら、アドバイスさせていただけるなら、イグアスの滝、ナイヤガラ瀑布、ヴィクトリア瀑布、マチュピチュ、マヤ遺跡、ぺトラ遺跡など、日本のTVでこれまでしばしば放映された名所に関しては、むしろ触れないほうがよかったのではないか。この著作で最高だと思わせるのは、やはりそれぞれの土地の人間関係であり、日本人のほとんどが未踏の場所における触れあいなのだから。そこにこそ至上の絆が生まれる素地があるのだから。

 作者にはこの種のノンフィクションを書き、読者を感動させる能力が自然に備わっているように思う。今後も他とは比較を絶した、とはいい条、あまりに自意識過剰に陥らずに、なおかつ自分らしさを存分に表現したノンフィクションを書き続けて欲しいと切に願う。

 タイトルにある「いちばんの星空」というのは、途上国の人工的な光のないところに行くと、(行くことができれば)、ウミガメが産卵する風景より、頭上を埋める満天の星に目がいってしまい、感動するということであろう。


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