おとうと/幸田文著

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おとうと
「おとうと」
幸田文(1904-1990/幸田露伴の娘)著
1957年中央論社より単行本初版
1968年3月30日  新潮社より文庫化初版
¥400+税

 
 時代を反映して、文字使いが古臭いが本書が上梓された昭和32年当時を彷彿させるものがあり、そのことは人間関係にも、心のありようにも表れていて、それなりに胸に迫る。ちなみに、本著作は作者53歳時の作品。

 文士の父親と継母と17歳の少女と14歳の弟の4人家族という設定は、おそらく幸田家の実際の構成なのだろうが、主人公の少女が家庭の平和を希いながら、父母それぞれとの関係を円滑に保つように努力しつつ、ぐれて奔放に生きる弟を少女らしい目で見守り、心配する姿には少女の心理状態が巧みに描かれ、心打つものがある。

 ただ、書かれた時代が古いだけに、「よたもの(不良/チンピラ)」とか、「上背(うわぜい)」とか、「たらす(たらしこむ)」とか、死語に近い言葉が頻発し、あわせて「じぶくれている」、「だだら遊び」、「よっぱちな生活」、「疎々しくしている息子」、「遠々しくしている母親」、「へへら台ごと持ち込んで」などという、方言なのか、時代を映す言語なのか、単なる訛りなのか見当のつかない言葉が頻発し、こういう言葉が物語りの進行に水を差し、ひいては興を殺いでしまい、速読をも妨げ、薄い本なのに読了するまで思わぬ時間をとられる結果を招来した。

 解説者が本書の出だしを褒めちぎっているが、淡々とした悪い表現でないことは私にも納得できるが、美しいうえにスムーズで、読者を設定した世界に抵抗なく引っ張り込んでしまうという点での文才に関していうなら、藤沢周平の足元にも及ばないと私は思う。


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