ぐれる!/中島義道著

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ぐれる!
「ぐれる!」 中島道義(1946年生/哲学博士/電気通信大学教授)著
2003年4月10日 新潮社より新書初版 ¥680+税

 
 過激な発言は、アングルを変えれば、「やぶれかぶれの哲学」といっても大きく間違った認識とはならないだろうから、ごく一般的な読者にとっては「大学の教授がこういうことを言うのか」と怪訝な思いに駆られるかも知れない。

 「人間なんぞは、もうじき死んでしまうのだし、人生なにをしてもおもしろくないんだから、グレて生きよう」という提案が冒頭でなされる。

 確かに、長い目でみれば、太陽系はいずれの惑星をも含め、太陽の膨張によって死滅、雲散する運命にあり、すべては無に帰することは宇宙科学を僅かでも知っている人にとっては常識であり、その科学的知識をベースに思索する限り、「人類の生存に意味などあるわけはない」と結論することに納得がいかないということもない。

 とはいえ、私個人の思惑としては、太陽系が死滅するより先に、超進化したウィルスが世界中に蔓延し、人類があっという間に死滅する可能性、あるいは人間の手で移動方向を変えられない隕石の衝突によって地球上が何千度という熱風に覆われて死滅する可能性のいずれかのほうが早いのではないかという気がする。

 本書で作者が告白するところによれば、作者本人が家族(妻も子供も)をもちながら、気分よく一緒にいられるのは一年のうち数ヶ月が精一杯という感性は異常だし、「だったら、結婚などせずに、孤独な生き方に徹すべきで、得て勝手な発言は家族に対する冒涜というしかない」と言いたくなる。

 「人類に、人間という生物の存在に意味があるのか」との問いは、私自身も若いときから脳裏につきまとう大きな設問だったが、結婚し、子供ができ、仕事に打ち込み、生活にも仕事にも追われるうちに、深刻な思索に陥ることを意図的に避けつつ、「グレる」ことなく、自分を「だましだまし」生きてきたという過去ができあがっていた。

 本書のなかで、記憶に留まった点、面白いと思った点をあえて挙げれば:

 林真理子の「ルンルンを買っておうちに帰ろう」という作品を引き合いに出し、「ブスは個性的などという言葉はまず捨てなさい。ブスは普通に生きるのがいちばんよい。力まず、恨まず、主張せず」、さらに、「ブスのくせに自覚が足りない。ブスのくせに謙虚さが足りない。ブスのくせに倖せそうなふりをするな」と、厳しい発言を取り上げて、林真理子の「グレている」度合いを褒めちぎるが、このセリフを林真理子が受容できるか否かは疑問。

 「有名な隠遁者、出家者は人並み以上のすね者で、虚栄心が強く、人並み以上に生命力が強く、人並み以上に俗物的価値に敏感で、兼好法師も、西行も、良寛も、漱石も、永井荷風も、この範疇に入り、こういう人たちを『グレて生きた人』という」(当たっているかも知れない。私は生来、僧侶という生き物が嫌いである)。

 「男と女とは基本のところから違う。男のパンツを集めている女はいない。男のトイレでの写真を見て興奮する女はいない。男の前で性器を露出して、相手の驚いた顔を見て快感を覚える女はいない。だいたい、ポルノの鑑賞者の95%は男である」

 「優れた女が社会的に進出し、男の居場所を奪う。結婚にも女は自分より社会的地位でも収入面でも独創力でも上位の者を求める。結果、多くの男が優れた女の眼中から消えていく。ダメな男はグレルことによってしか生きる道がない」(理不尽を噛み締めながら?)

 総合的な感想としては、同感できる点と、むかつく点とが混在していて、読書に疲れるといったところだろうか。あるいは、癖の強いキャラが「奇異を衒いすぎさせた」という批評もあり得るだろう。


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