さざなみ軍記/井伏鱒二著

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さざなみ軍記

「さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記」
 井伏鱒二(1898-1993)著
 1946年に雑誌「展望」に発表
 1996年9月25日 新潮社より文庫化初版
 ¥400+税

 

 本書はタイトルを見れば解るように、二つの作品を収容している。

 ここでは、まず「さざなみ軍記」の書評を記し、次の機会に「ジョン万次郎」を書評する

 本書はあくまで作者の想像力をベースに書かれた平家の公達(きんだち)を主人公としたストーリーで、木曽義仲が帝都に侵攻、乱暴狼藉を働いた時点から、神戸の福原から瀬戸内海に船で逃れつつ、沿岸の各地域や島々に味方を募り、帝都へ帰還、支配者への返り咲きを狙うという設定になっているが、作者の最初の意図が終盤まで継続していたとは思えない終わり方にがっくりさせられた。

 それでなくとも、当時の気風、貴族意識、階級社会をそれとなく表現しようとの意図が作品に窺われ、そのためか使われている言葉が古く、読みにくい。そのうえ、完全なフィクションとしても成功していないし、歴史書としても嘘が多すぎる。

 辛うじて、当時は「六波羅探題」という言葉がしきりに使われたこと、そこが平家の拠りどころであり、「六波羅風に振舞う」とか、「六波羅好みの精神」とか使われていたことを知ったこと、また、「土民」という言葉にぶつかったときは「遭遇した」というより「驚きをもって邂逅した」という気持ちが強かった。そうなんだ、当時はそういう言葉を使っていたし、だれも違和感をもたなかったんだと。だから、後年、日本人は黒人を「土人」などと人間扱いしない呼称をつけて平然としていたのだと。


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