すごい製造業/中沢孝夫著

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「すごい製造業」  中沢孝夫(1944年生/兵庫県立大学環境人間学部教授)著
副題:日本型競争力は不滅
朝日新書  2008年1月初版

 

 本書は最近しばしば経済学者の口にのぼる「日本企業は衰退する」との発言に抗して、「それは杞憂である」と断言するところから始まり、わが国の中小企業の数々を例に採り、高度成長期から40年以上にわたって消耗戦を戦ってきながら、なお存続する「ものづくりの現場」が結果的に世界の先頭に立つ開発力、技術革新を可能にする競争力を獲得している事実を解説する。読者にとって、非常に心強い内容となっているものの、学者が書いた文章にしては切れがなく、やや緩慢な印象。

 なかから、個々の企業に関する話は興味のある方に読んでいただくとして、ここでは、なるほどと思った点を列記する。

1・教育の場は学校だけでなく、家庭、職場、社会など、人が生きる全プロセスがかかわっている。そして、人づくりこそが日本の強みであり、人こそが最大の天然資源。

2・中小企業では、知的熟練の重責が技術や技能の高度化を可能にした。

3・チタン、ニッケル、タングステン、ゲルマニウムなどレアメタルを一点ものとして削り出すのは先端技術ではなく、誤差を許さない熟練技術だが、このような金属加工技術もしばしば大手筋から注文され、日本の中小企業はことごとくこの分野に強い。

4・オリジナルな金具、器具、工具の開発能力のキーポイントは、ある意味では特注品をつくる能力である。室伏が使うハンマー投げのハンマーや、砲丸投げに使われる砲丸は、世界各国で作られているが、選手がオリンピックや世界戦で選ぶのは、必ず日本製である。なぜなら、日本製を使うと、飛距離が必ず伸びるからだ。これを製造しているのは街工場のおじさんで、鉄を丸く削るとき、僅かな削り音で、重心を真ん中に置くことが、彼にしかできないと聞く。

5・新しい製品と、それに基づく新しい仕事は先進国で生まれる。とくに、わが国のように、あらゆる種類の技術、技能の広がりをもつサポーティングシステム・インダストーリーの存在によって支えられる。こうした対応力は中小企業の連携、協力によって可能。今後の課題はそのワザを継いでくれる二代目の有無と、金融。今後、こうした中小企業を銀行がバックアップするかどうかという点であろう。

6・例外はビールと携帯電話。ビール会社は国内シェアの争いに地道をあげはしても、国外への進出には関心を示さない。携帯電話は世界一気難しい消費者を満足させる技術をもちながら、ボーダフォンやフィンランドのノキヤのような世界戦略に負けている。理由は二つのフィールドは共に日本国内需要だけでメシが食えるからだ。

7・人口と経済規模で単純比較すれば、日本はイギリスとフランスを足した規模をもつ。そして、基礎的な教育が全国にいきわたり、人材という高価な資源にも恵まれている。中国、インドのもつ可能性について過剰な恐怖をもつ向きがあるが、かれらの可能性は人口の多さだけで、文化、宗教、政治制度、人材など、多面的な要素がかかわってくる分野ではたいした発展は期待できない。

8・工場の海外移転から「産業の空洞化」を杞憂する学者が多いが、これは誤解や曲解を生むだけ。

9・中国や韓国がどう頑張っても、トヨタやホンだのハイブリッド技術を獲得するのは無理だろう。国内の三菱、日産、マツダですら、追いつけないのが現実である。(ただ、日産は独自の感電池の製造に必死に立ち向かってはいる。また、世界の目は質の高い日本車より、他国産の安い車に向けられている)。

10・技術とはアイデアを物に返還する力であり、絶えざる革新を遂げる「知力の総合」を意味する。

11・アメリカ、カナダは現在でも世界有数の農業国である。

12・農業革命、産業革命、情報化社会と歴史は変化してきた。アルビン・トフラーは「コンピューターの出現は知識こそが重要な素材であり、「明日の石油」であると言ったが、「脱ものづくり」を強調する姿勢は間違えている。(地下資源に依存しないエネルギーこそ、地球と地球上の生物を生かす要諦)。

13・「物づくりこそが日本のお家芸であり続けることは否定できないが、日本が欧州に敵わないのはデザインとブランドの才能である。

14・トヨタの工場で最も品質の優れた車をつくっているのはトルコの工場だが、ノウハウの基本は日本でつくられたものである。

15・10年、20年と永続して経営を維持し、社員とその家族が生活の心配がなく暮らせ、法人税をきちんと支払い、社会に貢献している会社が「現場力」のある会社であり、開発力のある会社である。そのような会社に共通するのは絶えず新しいことにチャレンジし、同時に人を育てる仕組みをつくることに手を抜かないことである。

16・常時存在する仕事は会社にとってコアであって、ルーティン化されているが、品質、性能、機能、形状、量などは日々変化するが、そういう過程のなかから新しい仕事の種を見出すことで、経営の未来に新たな可能性を獲得する。

17・日本の工場のように、誰もが多能工になるという発想がイタリアにもフランスにもアメリカにもイギリスにもない。かれらはスペシャリストのいう名の単能工でしかない。戦後しばらくは、日本も同じであった。自分の仕事を抱えこむという習慣を崩すのは働く人間の発想の転換を強いることになる。

18・精密金型部品のメーカーで春に若年者を5人雇用したが、その年の暮れには5人とも辞めてしまった工場がある。地道な細かい仕事を今の若者は嫌がるらしい。とすれば、海外から若年労働者を雇用するか、国内で中高年労働者を再雇用するしか、経営を守る方法はない。

19・成果主義は厳密を欠くと崩壊する。賃金というものはある額を継続して受けとると、それがあたりまえといった気分になる。賃金は極論すれば、社会的に平均であればよい。(これには反論がある。私の知る某社では、すでに10年近く成果主義を貫いているが、3か月ごとに、社員の営業実績を勘案して年俸を計算し、次の3か月は新しく計算された年俸を12か月で割り、給料となる。そういう仕組みを長期間続けてきたし、人間の上下関係も年齢や社歴、学歴などは全く関係がないという手法で、この5,6年の間に、45人前後だった社員が450人と10倍に増えている。とはいえ、過剰な成果主義は格差を生み、人間社会にとって必ずしも幸福な結果を生まないのではないかという危惧も否めない)。

20・大企業は動物だが、中小企業は植物である。大企業は大きく移動、移転するが、中小企業は根を生やして、同じ場所から動かない。大切なのはあくまで付加価値の高いものをつくる技術と開発力であり、技術を深耕することが求められる。

21・いかなる経済システムも人口、技術、嗜好、資源などの環境パラメーター値が変化したり、国際、国内における政治プロセスにおける力関係が変化すれば、それに応じて制度変化を余儀なくされる。でなければ、生命力を失うだろう。また、それぞれの経済システムは他の経済システムから学習することによってシステムの自己革新を遂げてもいく(経済学者の青井昌彦氏の言葉だが、これこそが環境適応であり進化というものであろう)。

22・文化とは排他的であり異質的であるが、そこから他に真似のできない新しいブランドづくりが可能にもなる。

23・企業は技術、特許、ブランド、伝統、立地、規模、資金、ネットワーク、信用といった無数の要素によって成り立っているが、中小企業は人間の能力として蓄積されるものが圧倒的であり、それが日本の「ものづくり」を世界に冠たるものにしている。(日本の優良企業を定年退職した人間を韓国企業が招致、日本の卓越した技量を教えることで定年後のメシの種にしているとしたら?)

24・昨今、多くの企業の悪行がニュースになっているが、多くの不正、不法行為は競争から起こるものではない。多くは過剰な利益を求めることから始まる。


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One Response to “すごい製造業/中沢孝夫著”

  1. openknowledge より:

    コメントいただきありがとうございます。
    中小企業は単独では弱いのだから、皆でタッグを組んでぶつかればいい。そうすれば大企業に負けない力を持つことができる・・・と、そう考えております。
    リナックスの成功事例をみるまでもなく、相互、利他、公開の精神でつながることができれば日本の産業がどれだけすごくなるか、そんな社会を目指して活動をしております。

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