もしもし/ニコルソン・ベイカー著

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vox

「もしもし」 ニコルソン・ベイカー(1957年ニューヨーク生まれ)著
原題「VOX」
岸本佐知子訳 白水社単行本 ¥1,700
1993年8月初版
写真はアメリカで出版された原書

 

 地の文のない電話を介した会話体だけに終始する、全く新しいスタイルの小説。

 米国大陸の東と西に居住する一人の男と一人の女が、互いの素性は知らぬまま、電話だけを通じ、セックスを軸に、というよりオナニーするときのそれぞれの嗜好や癖を延々と語りあい、声のやりとりで互いを理解しあい、親しみを増していき、さいごは互いにマスターベーションをやって終わるというストーリー。

 「ただのテレホンセックスにすぎない」といえば、そうかも知れないが、それを一冊の本にまで仕上げる技量は並みの能力ではない。過剰ともいえる空想癖と想像力がないと、こういう作品は書けないと思うからだ。

 ただ、日本人には馴染みのない言葉がときおり使われるため、想像の過程で停滞したり、ときに途切れてしまったり、いわば想像を中断されることはあるかも知れない。また、セックスやオナニーに関しては、人により欲求も好みの想像内容も千差万別、本書で語られる内容が読み手のだれをも興奮させるとは限らない。

 訳者の解説によれば、前作の「中二階」が傑作だとの評があるが、一人の男が日常的に目に触れたり手に触れたりする機器や道具や生活用品を採り上げ、一般的には気づかないところに疑問や感銘とともに執着が脳裏をよぎり、それらを思考し評価する過程を緻密に追う作品らしく、こちらの方に関心を惹かれた。

 「マスターベーションしているとき、どんな女性もこのうえなく美しい」との表現には納得。


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