アメリカジャーナリズム報告/立花隆著

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「アメリカジャーナリズム報告」
立花隆(1940年生)著
1978年5月 文芸春秋社より単行本
1984年3月25日 文春より文庫化初版
¥457+税

 

 本書は日米両国のジャーナリズム間にある相違、差異に関し、ワシントン・ポスト紙の記者を主な対談相手としてジャーナリズム論を展開するという体裁を採っている。

 理由は、明らかに、ワシントン・ポストの記者がウォーターゲート事件を最終的に暴露することに成功した事実と、作者自身が「田中金脈」を追った事実が背景にあり、比較検討する上での礎とするに格好の素材だったということがあるだろう。

 ウォーターゲート事件では、最終的にニクソン大統領は政界から消えることを前提に辞任したが、側近の十名以上が刑務所入りを余儀なくされた。一方、田中ローッキード事件では、田中自らは5か月後の総選挙で復活し、側近だった金丸、小沢(現民主党)には司直の手は全く及ばなかった。さらには、田中が引退後は臆面もなくその娘が地盤を利用して議員になったが、作者が言うように、私も田中は刑務所に収監されるべきだったと思ったし、娘の代議士のプリゼンスには、その鉄面皮ぶりに驚かされた。いわんや、田中の金庫番、金丸の腰巾着だった小沢などが民主党に鞍替えして、ボスとして振舞う言動は滑稽であり噴飯ものという以外にない。

 上記した件を、作者は「政治風土の違い」という言葉で片付けたが、これは明らかに「民度の違い」であり、「民のレベルの違い、知性の違い」としか思えない。単に地元である新潟に首相であるための有利性を踏まえ、公共投資を優先的に行なったりしたことの地元の評価だとしたら、政治家は、たとえ首相であっても、国のためではなく地元のために政治的配慮を惜しまないということになって、結果的に国政がないがしろにされることを意味しないのだろうか。日本の政治家は概して、自らが地盤とする地域を代表する代議士といった印象が強く、国を牽引する立場にある義務も責任感も希薄な気がする。(アメリカでは100%地元企業からの政治献金をあてにしていないという意味ではない)。

 2009年の総選挙にあたり、各党からマニフェストが出ているが、「秘書による選挙違反であっても、立候補者の責任とする」という内容を明言する党が民主党ならば、小沢や鳩山の立場はどうなるのか。

 「アメリカでは訴訟が多いわりに、裁判が結審に至るまで1、2年というスピードであるのに対し、日本の裁判は最高裁まで上告すると、平均して10年はかかり、場合によっては20年というケースすらある」

 この事実に関し、これまでなんら是正への声があがっていず、これという有効な手法を提起することもなく、放置されてきたことが信じられない。これに、陪審員による裁判参加という新しい制度がスタートしたら、審議はさらに遅延しないのだろうか。さらには、「時効を失くせ」という声すらある。

 「政府も、政府高官も、その公式発言にはメディアを利用したプロパガンダであるケースが多く、これを情報として捉えるのでは真実を国民に伝えることにはならない。発言の背後にある意図を探り、政府の真意を把握することこそ、ニュージャーナリズムの名に値する」とは、「ベスト&ブライテスト」を書いたハルバースタムの言葉。

 現実には、たとえば、警察の発表を待って、各メディアはそれをそのまま報道するのが通例である。

 「日本ではテレビタレントが即席にでっちあげた程度の低い本がよく売れるという実態があるが、まじめな本が出版に寄与しないのは、大衆が低レベルのテレビ番組や世論誘導に冒されているからではないか」

 (全く同感)。

 「速報性、守備範囲の広さ、包括的、網羅的な紙面構成などは日本の新聞の良さだが、反面、斬り込みが浅い。一方、アメリカの新聞は徹底して個人主義の新聞で、掘り下げも深く、ここに最も大きな違いがある」

 そのうえに、アメリカの新聞には存分の個性がそれぞれにある。

 「アメリカには日本のような全国紙といわれる大企業が存在せず、すべてが地方紙である。辛うじて、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、シカゴ・トリビューン、ロスアンゼルス・タイムズくらいが全国に読者を多少持っている程度。とはいえ、日本の新聞はそれぞれどれをとっても似たような内容で、画一的である」

 「日本のジャーナリストは、国民の知る権利を踏まえた、国民主権を念頭に厳しく突っ込んだ質問を政府、政府高官にぶつけることがきわめて稀で、ために個性のない、なぁなぁの記事になってしまう」

 「国家公務員法に守秘義務を負わせている日本の実情は報道の上での最大の癌である」

 本書は30年以上前に出版された書物であり、以後、9・11テロがあり、サブ・プライム・ローンから端を発した金融恐慌が続き、現在、世界が(欧州、日本を中心に)経済的に疲弊している。こうした異常な経済情勢のなかで、アメリカのジャーナリズムはどのような反応をし、どのように個性的な新聞づくりをしているのだろうか。

 報道のあり方は発信、受信はもとより、取捨選択、消化という面でも、すべての面での速度を要求するようになっている。本書は報道という現代社会の一断面を鋭く解説しつつ、アメリカとの相違を喝破しているが、対談における作者の執拗なまでの質問や突っ込みには敬服する。

 ただ、テレビで毎回のように放映されるが、タレントや有名人が事件を起こしたとき、まるでヤブ蚊がたかるように100人、200人というマスコミ関係者が群がる図は醜く、ヘドが出る。そして、各新聞社も各テレビチャンネルも同じような内容の報道を数日にわたり何度も流す姿勢にも辟易する。さらには、TV報道では、どのチャンネルもがバカの一つ覚えのように、現場に待機しているキャスターに事件の内容を、変わり映えもなく、再びしゃべらせる手法にも、被害者の知人に被害者が生前どのように良い人柄だったかをしゃべらせる手法にも、この国のメディアのレベルの低さを感じさせるばかり。

 電化製品の発達が人々の生活を豊かにした一方で、国民の知性を毀損、今後この国がかつて高度成長を果たしたときのような知的向上心を持ち続け、先進諸国に伍していけるのか否か、はなはだ疑問。それどころか、携帯やパソコンが過去にはなかったトラブルや犯罪を誘発している現状に、「進歩」「発展」とはなにかを考えさせられる。

 若年層が過去にはない訳の解らない凶悪犯罪に手を染めるのも、そうした延長線上にあるのではないだろうか。その種の犯罪を見聞きする都度、私にはこの国の若者が発狂しているかに思えてしまう。


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5 Responses to “アメリカジャーナリズム報告/立花隆著”

  1. withyuko より:

     この本とあまり関係がないかもしれませんが、北朝鮮にアメリカ人(中国系アメリカ人と、韓国系アメリカ人)のふたりの女性ジャーナリストが拘束されていますね。クリントン元大統領は訪朝されたそうですが、取り戻すことができるでしょうか?
    それって、日本や韓国の拉致問題にも関係してくるのでしょうか?

  2. hustler より:

    アメリカ人ジャーナリストは解放され、クリントン元大統領と一緒に同じ便で帰国するでしょう。とはいえ、日本の拉致問題まで、キム書記長とのあいだに話が出たか否かは報道されていず、この時点では不明というしかありません。ただ、アメリカとしても、6か国会議を無視して、米朝だけの直接対話だけで、北朝鮮との関係を改善しようとはしないはずです。しばらく様子をみましょう。

  3. hustler より:

    withyukoさんから本日頂いたコメント、処理を誤ってしまいました。ごめんなさい。拉致についてですが、8月5日の夜の報道によると、クリントン前大統領は拉致した韓国人と日本人はできるだけ早く帰国させるようにとの要望を告げたそうです。

  4. withyuko より:

    >hustlerさん、ありがとうございました。
    私の稚拙な質問にもきちんと回答してくださってうれしかったです。でも、クリントン元大統領は金正日総書記との会談の内容は秘密、、、と言ってましたね。あと、私はもう政策立案者でないとも。
     なにか進展があるといいなーとは思いますが。

  5. hustler より:

    米国の元大統領がわざわざ北朝鮮に足を運ぶ以上、事前に充分な根回しがあるはずですし、あわせて関係する六か国への配慮もしているはずです。この動きを最も歓迎したのは、いうまでもなく、北朝鮮でしょう。

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