アメリカ帝国の衰亡/ポール・スタロビン著(その2)

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「アメリカ帝国の衰亡」
ポール・スタロビン著
2009年12月20日 新潮社より単行本初版

書評その2

 「その1」に続き、「これは」と思った箇所を以下に列記する。

*ロシアはパワーゲームに積極的で、化石燃料をベースにして、一応経済的に安定してはいるが、化石燃料の輸出以外に売るものはなく、そこにリスクがつきまとう。医療もお粗末で、プーチンとメドベージェフの独裁体制も必ずしも磐石とはいえない。(二人とも北方領土を日本に返還する意思はないだろうが、二人の大統領交代に関して国民が必ずしも納得はしていないだろう)。

*かつて、19世紀から20世紀にかけて、西洋列強や日本がナショナリズムに燃え、力づくで領土を拡大し、結果的に大戦に突入するといった歴史と同じようなナショナリズムが新興国の中国やインドやブラジルやロシアにないとはいえない。

*多極化世界が実現しても、資本主義的経済が継続することを世界は望むであろう。新興国家もそれによって国を富ませ、軍備を大きくしてきたのだから。(ただ、投機をメインとするような資本主義は願い下げにしてもらいたい)。

*中国にとってブラジルは最大の大豆供給国、アルゼンチンは最大の食肉供給国、チリは最大の銅輸出国である。中国は市場で買わず、銅山そのものを買い取ろうとしている。チリには資源開発する資金、純銅板を加工し、ワイヤーなどの最終商品をつくる能力がない。中国はそういうチリの足元を見ている。

 中国はいずれ南米に武器輸出することを目論み、チリでは20校近くが中国語クラスを設けている。さらに中国文化を理解するための「孔子研究センター」まで設立する検討がされている。(中国は発展途上国で地下の資源をもつ国なら世界中どこにでも手を出す)

*急成長の裏側には、多かれ少なかれ、汚点がある。アメリカも同じ歴史を歩んできた。中国に対して否定的態度を示すのはヨーロッパ諸国と日本。とはいえ、中国の軍事的拡大に危惧を抱くのは欧州と日本だけでなく、韓国、ロシア、インドも同じサイドにある。

*世界的機軸通貨としてのドルの位置が中国元にとって代わられるのだろうか?

(環境改善に熱心でなく、21世紀に他国=チベットに武力介入するような国が「アメリカ後」を継ぐことに世界が寛容であるわけがない)。

*豪華絢爛たるドバイを建設したのは安い労賃で熱暑の土地で働かされたインド人やフィリピン人である。

*二次大戦後の欧州軍事裁判において、アメリカは人道を重視した裁判を行なうことに拘泥した。

(アメリカが日本やフィリピンで行なった軍事裁判で、少なくとも朝鮮戦争前までは、人道を重視した裁判に固執したようには思えない)。

*アメリカ支配の終焉は国際法、人権問題などあらためて論議のテーブルに浮上することを意味する。過去に犯した罪という観点からは、アメリカでさえその矛先の前に立たされる可能性がある。世界の警察をやった以上、きれいごとではすまないこともあったはずだから。過渡期には、世の中は混乱するものである。

*ノルウェイの元首相、ブルントラントの言葉、「地球は一つだが、世界は一つではない」は言い得ている。

 (世界には多くの個性的な文化が息づいていると認識している割合には、この著者は世界の突出した部分には目がいっているものの、遠慮深く息づいている部分には目がいっていない。それこそがアメリカ人的迂闊さだと言っていい)。

*官僚的で優柔不断な姿勢しかない国連を信頼する国が意外に多いことには驚かされる。

(世界の多くの国にとって国連こそが唯一の頼れる存在であり、偏りのない機関であって欲しいのであり、だからこそ国連を信頼し、国連に期待するという現状があることをアメリカ政府もこの著者も認識していない)。

 本書は国際的に目立つ部分だけを拾って書いている印象がある。殊に、日本の存在感が希薄なことには意図的なものがあり、明らかに軽く扱っている。言い方を換えれば、中国に関心を抱くほどには日本には関心がない。今後の世界経済において、日本の出る幕はないとの見方が著者にあるのかも知れない。オバマ大統領もすでに日本よりも中国に意図的なアプローチを継続している。

 「自国を自国の力で守る力に金を使わない国は一流国ではない」という当たり前の常識を、同じサイドに在るべきアメリカが強く持っている可能性は強い。今後のアメリカにとって、日本以上に中国が重要な地位を占めることは火を見るより明らか。

 少なくとも、バイオロジーとエコロジーに関して、日本の実力と可能性について言及がないのは、意図的でないとしたら、著者の無知に源があるのではないか。

 世界の流れ、ことに軍事、外交に関し、最も愚鈍なのは日本人。

 正直にいうが、本書は期待値の半分ほどを満たしてくれた。


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