イチローイズム/石田雄太著

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イチローイズム

「イチローイズム」 石田雄太(1964年生/ベースボールジャーナリスト)著
2003年3月 集英社より単行本として刊行
2008年7月 集英社より文庫化初版 ¥552+税

 
 本書は作者によるイチローへのインタビューを軸に編集された作品で、2002年の取材に基づいている。従って、当然ながら、2003年以降の活躍についても成績についても、作品のなかでは僅かにしか触れていない。タイトルが示す通り、本書はイチローという稀有の天才バッターの思うこと、信ずること、こだわること、感ずることなどから、「イチローイズム」というものを抽出することに力点が置かれていて、イチローという打者に一人の人間として触れることを主眼とする内容となっている。

 裏表紙の広告文にはこうある。「樹立される数多くの記録、度肝を抜くスーパープレーで日米の野球フアンを魅了するイチロー。メディアの前では多くを語ることのなかった彼が、激闘の軌跡からプライベートまでを語り尽くす。徹底した密着取材で、孤高のプレーヤーの素顔と本音に迫るノンフィクション。カラー口絵8ページをはじめ、写真も満載」

 ちなみに、イチローは1973年生まれ、今年で36歳。高校からドラフト4位でオリックスに入団、94年に210安打を放って以降、日米での8年連続首位打者をはじめ、打点王、盗塁王など獲得したタイトルは数限りない。2001年にメジャーのマリナーズと契約が成り、04年にはメジャー新記録のシーズン262安打を達成、07年の7月には僅か1060試合目で、メジャー通数1500安打を達成し、全米を震撼させた。

 2001年、アメリカンリーグのMVP、首位打者、ルーキー・オブ・ザ・イヤーと、考え得るすべての冠を引っ提げて2年目を迎えようとしていた。はじめてイチローを迎えたチームメイトも最初は怪訝な目でイチローを見ていたが、初年度の働きを目の当たりにして、納得もし、安堵もし、畏敬心も持った」という。その畏敬心が「イチローのバットは Magic Wand(魔法の杖)」と呼ばせることにもなった。

 「2001年の一年目に対戦したピッチャーの総数は184人、安打数の242はメジャーでもここ70年間には出なかった打率を結果。イチローにとって184人のピッチャーのなかで最もタイミングの取りにくかったピッチャーが野茂英雄だったという。アメリカメジャーのピッチャーのタイミングに慣れたためのデメリットかも知れないと当人は言っている」。

 「1年目の得点圏打率は.445、2年目は4月が終了した時点で同.391、満塁の場面ではメジャー通算.533という打率。一番バッターで敬遠される頻度の最も高いのがイチローだが、レッドソックスの四番打者、メジャーでの実績も超一流のラミレスがオールスターの舞台で同じブルペンとなり、その折り、彼はイチローに自ら近づいてきて、バッティング不調を打ち明け、助言を求めてきた。バッティング練習中だけでなく、ロッカールームでも、シャワールームでも」

 それだけ、イチローの初年度の実績は凄まじいインパクトがあったのだろうし、メジャー全体の注視の的だったことが推測される。

 「2002年のオールスターに2年連続選ばれたのはレッドソックスのラミレス、レンジャーズのロドリゲス、マリナーズのイチローの三人だけだった」。

 ちなみに、イチローは2009年まで、9年連続してオールスターに出場している。

 「2年目の最終成績は647打数208安打、打率.321(ア・リーグ第四位)、打点51、盗塁31、三振62、得点111、ホームラン8本、四球68(うち敬遠27)。オールスター時に助言を求めてきたラミレスは、イチローのアドバイスが役立ったのか、この年の終了時、.349の打率で、初の首位打者になった」。

 イチローの打つホームランはスタンドに突き刺さるような打球で、現地では「Frozen rope」(直訳なら凍ったロープ、意訳なら凍ったロープのように突き刺さる)といい、高く舞い上がるホームランボールは「Rainbow」という。

 「イチローの守備位置を示すのに『Area 51』という言葉が定着した。守備範囲の広さと同時に、レーザービームのような返球を意味している。入団したばかりのころのイチローには、外野席から紙コップやコインなどが罵声とともに投げこまれていたが、アスレチックとの試合時、一塁から一気に三塁を狙った選手を見事な返球でアウトにした直後から、外野席の反応は沈黙に変わった」という。

 「かねてホームランにだけ魅了されてきたメジャーフアンに走塁でも、捕球から返球までも、スピードの魅力を再認識させたのがイチロー、試合の流れを状況判断し、いろんな可能性をイメージする能力、そして、イメージしたプレーの肉体による具現化」。細かい野球をやらせたら、日本野球はまだまだ捨てたものではないとも。

 「メジャーに行ってからも進化するのは走塁だと言っていたイチローは、日本最後のプレー5年間は盗塁が低空飛行だったが、メジャー1年目に56盗塁を決めた」。

 「2001年のオールスター限定のサインボールは、イチローのボールが1個につき1千ドルで、マイク・キャメロンが60ドルだった」。イチロー自身も驚いただろうが、キャメロンは落ち込んだだろう。アメリカでは、こうしたサインボールはオークションの対象になる。

 「メジャーでは、かつて4割を打っても首位打者になれなかった時代がある」との話からは、だからこそ投球術がバッティング術を上回って研究されたのではないかという憶測を生む。

 「バットは同じものをもう一本つくることは可能だが、グラブは皮が自然のものである以上、同じグラブはあり得ない。そのため、イチローのグラブづくりに日本の職人は苦労する」。

 「パワーをつければ飛距離が伸びるという野球界の常套句に反するようだが、トレーニングの欠点は胸に必要以上の筋肉がついてしまい、厚みを増すと、可動範囲が狭くなったり、動きに俊敏さが欠けてくることだ」

 この言葉はいかにもイチローらしい。

 「野球に使う道具としてのバット、グラブ、スパイク、ユニフォームへのこだわりはもとより、遠征先にはMy Pillow(マイ枕)を持参する、打席に入る前のストレッチとセレモニーは欠かさない、水道水は飲まない、シーズン中は断酒する、事前のキャッチボールは大切にする。キャッチボールのイメージは厳しさという言葉がいちばん近い。キャッチボールは基本中の基本だから」などという言葉からは、イチローという天才バッターのこだわりが存分に表現されている。

 イチローには女性より男性のフアンのほうが多いように感ずる。周囲の女性から、「イチローって愛想がない」という言葉が出てくるが、イチローのストイックな印象は男性には感ずるものをもたらしても、女性には判りにくいのかも知れない。男らは、今後もイチローがどえらいことをやってくれるのではないかという期待を抱き、イチローの成績に一喜一憂し続けるだろう。


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