イワン・デニーソヴィチの一日/ソルジェニーツイン著

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「イワン・デニーソヴィチの一日」 ソルジェニーツィン(ロシア人)著
木村浩訳  新潮文庫

 

 1962年にイギリスで発表され、世界的ベストセラーになった本。

 ソ連収容所で過ごした10年余の経験をたった一日に凝縮して表しながら、それでも実情を十二分に伝えている。

 当時、ドストエフスキーに迫る名作との評価があったが、それはたぶん構成の妙、展開、登場人物の選択にあるように思われる。

 スターリン治下の時代がどういう時代であったか、収容所がどのような施設で、どのように運営されていたかについて初めて外部世界に報せた本だが、酷薄で非人道的な状況下においても、人間というものの愛らしさが失われていないことにも驚愕、感動した。

 自身の体験を三人称でなく一人称で綴ったほうが迫力が出たのではないかと思ったのだが、三人称にした意図は憎悪を軽減するためではなかったかと憶測した。

 本書を読みつつ、過日読んだ「脱出記」や椎名誠の「シベリア紀行」をしばしば思い出した。なにせ、シベリアの収容所というところは冬季、屋内にツララがぶらさがり、屋内のガラスに数ミリ厚の氷が張るところなのだ。

 専制君主的な社会では思想や考えを違える人物が得てしてこうした悲惨な目に遭わされるのは歴史の教えるところでもある。

 また、収容所に犯罪者も擬似犯罪者もいっぺんに突っ込んで、都市や橋梁や街を建設させるのは、湖沼にサンクトペテルブルグをつくったピョートル大帝以来の手法で、ロシアの得意技といっていい。本書の主人公が同じような労働を強いられた様子も書かれている。

 戦後、ロシア兵につかまり捕虜となった日本兵が酷寒のシベリアで長期にわたり過酷な労働に従事させられ、同じ連合国のアメリカとは天と地というほどの差をその扱いと姿勢で示した。そして、何人もの日本人がシベリアで亡くなったことも本書を読みつつ脳裏を去来した。


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