ウェブ進化論/梅田望夫著

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Web進化論
「ウェブ進化論」 梅田望夫著
副題:本当の大変化はこれから始まる
ちくま書房刊  新書版  2006年2月初版

 
 帯広告に将棋名人の羽生善治が「これは物語ではなく、現在進行形の現実である。グーグルとネット社会の未来について、希望と不安が見えてくる」との言葉が添えられている。羽生はインターネットの愛好家であり、インターネットを通じた将棋をも指す。

 著者は東京大学大学院情報科学科修士課程終了し、94年からシリコンバレーに在住した経験を持つ「IT分野のリーダー的存在」。

 以下、エッセンスを列記するが、個人的な備忘録。

1.「チープ革命とはハードウェア価格の下落、ソフトウェアの無料化、ブロードバンドの普及による回線コストの大幅な下落、検索エンジンの豊富な無償サービスなどを意味する。このような可能性がいったん開かれると、それを実現するための道具の価格性能比がものすごい勢いで向上していく」

2.「現在、日本だけで数千万人、世界全体では10億人がなにがしか自らを表現する道具をもち、こうした実態が追い風を受けて、さらに進化を継続する」

3.「技術革新の主役はグーグル(Google)であり、シリコンバレーにある会社。増殖する地球上の膨大な情報をすべて整理しつくすという理念のもとに1998年に創業されたベンチャーで、2005年10月には株式の時価総額が10兆円を超えた。グーグルには30万台のコンピューターが365日、24時間体制で動き続けている。グーグルの登場が世界中のIT関係者を刺激した」

4.「玉石混交の情報を取捨選択することができさえすれば、権威サイドによって届けられる情報より質が高くなり、専門家までもがネット上の議論に参加するようになるだろう。そうすれば、既存のメディアの権威は揺らぐ」

(あくまで、インターネットで得られる情報がメディアが供与する情報に比べ、質、量、速度、正確さにおいて凌いでいればという条件がつく。一般論だが、不特定多数の人間がかかわるインターネットで得られる情報が常に必ずしも正鵠を得ているとはいえないからだ。例えば、悪意のないデマにどう対応すべきかといった問題もある)。

5.「グーグルとヤフーの広告収入は2005年には米国の三大テレビネットワーク(ABC,CBS,NBC)のプライム広告収入にほぼ拮抗した」

6。「新旧が共存する、棲み分けはこれからも継続するだろうが、少しずつインターネットが旧勢力を侵食するので、対抗措置として合従連衡も起こり得る」

7.「ことの本質は技術革新による『知の世界の秩序』の再編にある」

8.「インターネットの真の意味は不特定多数の無限大の人々との繋がりを持つことのコストがほぼゼロになったということ。とはいえ、ネット社会には社会的矛盾を含んだ混沌が生まれてもいる。そこには可能性と危険とが同時に存在する」

9.「日本ではインターネットを家庭で安く使えるが、その事実はアメリカ人を驚かす。一方でネット社会という巨大な混沌に真正面から対峙し、そこをフロンティアと見定めて新しい秩序を構築しようという米国の試みがいかにスケールの大きなものかについても理解しておくべきだ」

10.「一般にトヨタの凄さについては共通理解が可能だが、グーグルやヤフーの情報に関する革命的変化はリアル世界ではなく、『あちら側に構築されつつある情報発電所の仕組み』としか理解されていない。これはパソコンに向かっても能動的、知的活動によってしか認識できないからだ」

11.「グーグルは小さな市場の集積から利益を生むことを可能にしている。旧来の手法で生きる企業では、開示すべき内容は予め吟味されホームページに情報を記す程度で、こういう組織では重要な情報を握ってコントロールすることが組織を生き抜く原則になってしまう。たとえ、小さな組織でも、モチベーションの高いメンバーだけで構成されていれば、すべての情報が共有されると、以後はものすごいスピードで物事が進み、大きなパワーを生む」

12.「グーグルの代表者はコンファレンスで『抜群に優秀な連中を集め、創造的で自由な環境を用意するし、情報は全員で共有した上で、小さな組織ユニットを沢山つくり、個々が最高度のスピードで動き、結果として組織内で激しい競争を引き起こす』と語った。ネット上で議論を尽くし、優先順位を決めていく、小さな組織ユニットで全力疾走する。サービスの機能を設け、プログラムの開発、コストから市場へのサービス投入まで平均三人の小組織ユニットでやってしまう」

13.「得意のITと検察技術を駆使して組織マネージメントを行なえば、創造性を高めつつ生産性をアップすることが可能となる。賢明で頭脳明晰な連中はみな、自分を管理できる。Best & Brightest信奉に徹底的な情報共有の考え方を取り入れ、テクノロジーで支える」

14.「マイクロソフトのビル・ゲイツは超秀才(Super Smart)を最高のプログラマーだと考え、それは多くの属性を表す。一つは、新しい知識を素早くリアルタイムで飲み込む能力、プリントアウトされたコードを一目見ただけで理解するプログラミングに長けていること、ドライブや食事のときまでコードのことを考えているような熱意、極度の集中力、自分の築いたコードを写真のように想起できる能力。マイクロソフトは1980年に学部卒のコンピューターサイエンス専攻の学生を大量に集めてハーバード大学をドロップアウトしたビル・ゲイツ自身のクローンをつくろうとしたとも言える」

15.「組織が肥大し、5、000人になると、情報自体に革新性があるため、自然淘汰を起こす。読まれる情報は価値があり、読まれない情報は価値がないという情報とみなされる」

16.「テクノロジーの重要性は正しく理解して手を打つが、その本質はメディア企業というのがヤフー。ニュース編集にしても優秀な人間の視点が不可欠だと考え、何につけても人間の介在を重要な付加価値創出の源泉だと認識している。一方、グーグルはメディア産業のことでメディアビジネスを全く新しいものに変身させるという破壊的な意図をもっているから、その必要性を感じていない。ヤフーはコンピューターが完全に人間の代わりを務めることができるとは思っていない点こそが決定的なグーグルとの相違である」

17.「絶対に儲からないから、そんな小さな客やメディアを相手にするなと電通が考える対象こそが、グーグルにとっての市場。そんなロングテール市場が大きいことを仮に電通が知ったところで、リアル大組織のコスト構造の重みゆえ、たとえ少々の売り上げが上がってもやるだけ損が積みあがる。絶対に追求できない。個人を含む極小事業と極小メディアのニーズを自動的に正確にマッチングする情報発電所インフラを持っていなければ、グーグルのようなロングテール追求は無理。

 加えて、大組織にとっての脅威はこれまで無視、軽視してきたロングテール追求者が産業全体のルール破壊者となり、大組織が依存する『恐竜の首』部分の上顧客をも徐々に、かつ着々と奪いつつあることだ」

(電通は元々自ら投資した巨大な施設なり設備なりを抱えているわけではなく、メディアのもつ各チャンネル、各番組へのスポンサーを前もってはめこんでいき、多額の仲介料を巻き上げるだけであって、必ずしも電通が不可欠の存在というわけでなない。

18.「インターネットは今や第二期に入っている。その方向で先駆的に動いたのはアマゾンコムだった。アマゾンのウェブ・サービスは、公開から1年足らずでウェブサービス利用して作られた無数のサイト経由でアマゾン商品を購入したユーザーは数千万人に昇った。たくさんの小売業者がアマゾンのテクノロジーインフラに寄生することで継続できる世界が構築されたといえる」

(この事実は同時に、旧来から日本の出版業界を牛耳ってきた日版、東版など、日本に特有の出版物を書店に搬送するために介在する企業の存立を危うくするものでもあるが、こうした介在業は日本特有の現象であって、たとえばアメリカなどでは出版社と書店とがダイレクトに結びついている)。

19.「こちら側のシステムコストとの差が日本の大メーカーの1万倍、10万倍、100万倍と大きく広がっていくというのが事の本質。それだけのコスト差が出れば、徐々に経済合理性が働き、少しずつ大企業の情報システムも『あちら側の解放性』といったキーワードで動きはじめ、そのときにIT産業は再び大激変に見舞われる。次の10年以内にそれは起こるだろう」

20.「ロングテールとウェブは表裏一体の関係、キーワードは不特定多数の無限大の自由参加。それがネット上でのみ、ほぼゼロコストで実現される。この現象の核心は『参加自由のオープンさと自然淘汰の仕組みをロングテール部分に組み込むことで、未知の可能性が大きく顕在化、しかもその部分が成長していく』ことだ」

21.「これからのネット列強の役割とはロングテール追求の連鎖をウェブ全体に波及させ、主体とすること」

22.「ヤフーや楽天は自ら発信した島を開放空間にする気がなく、相変わらず孤島の魅力を競い合うことがネット事業だと考えているが、そのことが日本のウェブ全体の進化、発展を阻害している」

23.「ブログへの記入者は2005年、米国で2千万人、日本で500万人を越えた。ブログの語源はWeblog(ウェブの記録)で、個人の日記風のものから、ネット上の面白いものの紹介から、全体的にシンプルで、ブログの増殖ぶりはすさまじい。そして、次第に量が質に転化している。

 ブログの最大の問題、玉石混淆問題を解決する糸口がITの成熟によってもたらされつつある。ITの成熟の一つの例はグーグルによる検索エンジンの圧倒的進行。もう一つは、ブログ周辺で生まれた自動編集技術」

24.「米国のブログと日本のブログの違いは米人は実名で、日本人は匿名かペンネームで書くこと。日本の専門家はおそろしく物知りなのにアウトプットが少ないが、米国人の専門家はあんまりものを知らないのにどんどんアウトプットする。国情の違い。米国の「おれが、おれが」がブログを発展させた」

25.「文章、語り、音楽、絵画、映像、漫画。表現行為の可能性は広がっていく。総表現社会といっていい。ブログはそんな未来社会への序章を示している。また、ブログにおける玉石混淆のふるいわけの可能性は既存のメディアの権威失墜を早める可能性を秘めている」

26.「ブログは己の能力と生き様がそのままプリゼンテーションの装置として機能する。記事を書き続けることで、人との繋がりも生まれる。ブログは、また、自分の生きた証ともなり、遺書ともなり得る。

27.「ネット空間上の「個」とは、分散、多様性、独立性を巡るもので、無数の個の意見を集約するシステムであり、『群集の叡智』(スロウィッキーの仮説)をめぐってネット上での試行錯誤が活発に行なわれる時代となっている」

28.「日本も今や世界に冠たるブロードバンド大国、携帯大国。日本の少年少女はいま世界中で最も進んだITインフラの中で日々呼吸している。物心ついたときからインターネットや携帯電話の存在を空気のように感じて育った彼らは近未来に新たな何かを創造する可能性がある。それはまた、脱エスタブリッシュメントへの旅立ちともなろう」

29.「世の中に優秀な人というのは想像以上に沢山いるが、不思議な人間的魅力を伴う『器の大きさ』と『動物的な強さ』を併せもつ個性に出会うことは滅多にない」

30.「シリコンバレーにはオプティミズム(楽観主義)に支えられたビジネスがあったのに比べ、日本にはそれがない。オプティミズムを前提とした試行錯誤以外からは直面する難題を創造的に解決する力は生まれない」

 以上、目から鱗が落ちる話からは学ぶことが多かったが、つくづく思うことは、コンピューターの出現が世代を分けてしまったこと、インターネットを使えることが人間の頭脳を多角化することに寄与していること、パソコンの機能を百パーセント認識している人間と10パーセント以下の人間のあいだには大きな隔たりがあること、などなど、わが身を省みる機会になった。

 ただ、インターネットを楽しむだけの人とは別に、ハッカーであることに全力を挙げて、個人情報を流出させようとするやからもいる。善意のインターネット利用者が攻撃を避けられ、被害者にならぬような工夫をぜひお願いしたいものだ。


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