ガン日記/中野孝次著

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「ガン日記」
 中野孝次(1925-2004/哲学者・作家)著
 2006年10月 文芸春秋社より単行本
 2008年11月10日 文春より文庫化初版
 ¥524+税

 

 この作家の作品に接するのは初体験。本書は病院関係者より入手。

 腹部に痛みや重苦しいものを覚え、検診したところ、病名は「食道癌」、余命1年と宣告されたのが2004年2月。

 作者の食道癌はかなり進行しており、症状からも年齢からも手術の対象にならず、検査、通院をくりかえしながらも、入院して延命策を採ることに抵抗感があり、知己が多いことから多数の医師の意見を聞いたものの、入院を肯んぜず、「ガン日記」を書きはじめる。

 死と向き合いつつ、心の安定を維持、覚悟を決めていく過程が書かれているが、作者にとって心の糧となったのは、哲学者「セネカ」の作品の一つ、「ルキリウスへの手紙」で、「人に起こることは、誰にでも起こる」という言葉に特段の感銘を受けたらしい。

 日記は癌を宣告されてから1か月10日後に入院するまでの短い間に限られていて、入院して4か月後に作者は逝去している。

 本書を読めば、誰でも、「もし自分が作者だったら」との思いに立ち、それぞれがそれなりの反応をし、それなりの覚悟を決めるのだろうが、普段、「形あるものは必ず滅する」「生あるものに死は必然」など、判っていても、いざその修羅のなかに放り込まれたら、自らを安定した境地に維持するのは難しく、動揺するだろう。

 作者の日記は、いわゆる現代文とは若干趣の違う文体で書かれているが、読むことに難渋するほど高い難度のものではない。

 また、作者の日記のあとは、妻が入院中の作者の様子を書き継ぎ、作者が生前に読書中に心の琴線に触れた言葉などをメモしていたのが発見され、その部分も本書に収容し、1冊の書物としての体裁を整えたかに感ずる。


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