ココがわかると科学ニュースは面白い/中野不二男著

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「ココがわかると科学ニュースは面白い」
中野不二男著
1999年9月、文藝春秋より単行本「科学の時間」で初出
2004年5月 新潮社より文庫化初版

 

 正直いって、内容が少し古いなという感じはある。

 それでも、学ぼうという姿勢が読み手にある限り、それなりに脳を刺激してくれる。

1.科学技術は日進月歩という表現が使われるし、現実にパソコンでもインターネットでも、携帯電話でも、めまぐるしく多機能化しているが、地球と月の自転、公転も、相互の距離も変わっていないように、身の回りの根本的な部分はさほど変わってはいない。月と地球の自転、公転は緩慢ながら変化しているし、そのため月は地球から徐々にではあるが、次第に離れている。

2.「宇宙服」と日本語で命名されたものは、英語ではExtravehicular Mobility Unit (EMU)というように、単なる服ではなく、それ自体が生命維持装置を備えたユニットという捉え方をしているし、そう捉えるのが正しいだろう。

3.EMUの内部は3分の1の気圧に維持され、純酸素で満たされているため、この環境にいきなり入ると、スクーバダイビングで深みから急浮上したときに経験するような「減圧症」にかかる。それを回避するために、EMUを着用して作業するまえに必ず12時間かけて船内気圧を徐々に下げ、減圧下の環境に体を慣れさせる。スクーバダイビングでいう「飽和潜水」(Satulation Diving)と同じ理屈。

4.超真空の世界では、EMUはパンパンに膨らみ、一挙手一投足に体力が消耗する。数時間の作業で握力がなくなる。

5.エヴェレストの山頂の気圧が海面レベルのおよそ3分の1だから、EMUの内部気圧と大差はない。ただ、大気圧よりも血液中の分圧が桁違いに高いから、ガス交換は放っておいても問題ないが、EMUには200mmHgの圧力の純酸素を供給すれば、地上と同じ状態になる。(ただ、大気中で純酸素を吸えば、長くはもたない。人によって純酸素にどのくらい強いかは異なり、「酸素耐性」の事前チェックが必要になる。

6.宇宙空間(超真空状態)で難しいのは姿勢の制御である。重力もなければ、東西南北を示す方位などもない空間では、一定の姿勢に制御することは意外に難しい。

7.火星では体重60Kgの人が23kgになるから月の2倍。火星のサイズは地球の体積の6分の1-7分の1、直径では地球の半分強といったところ。逆に、地球の質量の10倍の惑星に行ったら、60kgの人は600kgになる勘定で、脚が大地に張り付いたようになり、おそらく歩けないだろう。

 地球に月という衛星があるように、火星にもフォボスとデイモスという二つの衛星があり、二つともできそこないのジャガイモのような形をしていて、それぞれ、直径で26キロと16キロしかない。デイモスの軌道は火星の中心から2万3、500キロだが、フォボスの軌道は9、380キロ。札幌から那覇の2.6倍に過ぎない。ちなみに、月は直径が3、500キロで、地球からは38万キロの距離にある。

8.石油について

1)ディーゼルの燃料はガス油の石油系である。

2)原油とは油田から出てきたばかりの真っ黒く、どろどろした油で、英語ではCrude Oil(生の油)という。主成分は液状の炭化水素。原油にはほかに硫黄、窒素、酸素、金属などが化合物として含まれている。(太古の微生物の死骸が堆積し、化学変化したもの)

3)石炭は堆積した植物の科学変化したもの。

4)原油の処理について

 *産油国からタンカーで運ばれた原油はそれを輸入する国の桟橋でパイプラインにつながれ、加熱炉で350度以上に熱っせられて蒸気となり、蒸留塔の下部に吹き込まれる。蒸留塔内部の温度は均一ではなく、下は350度程度、原油の蒸気は温度が下がるにつれ液化する。それぞれの温度領域で液化する成分に違いが生ずる。液化する温度を「沸点」といい、沸点の違いを利用して、現油の蒸気を灯油、重油に分ける。

 *最初に軽油:沸点240度-350度

 *灯油:170度-250度

 *重ナフサ:100度ー180度(ポリエチレン、塩化ビニールなど化学製品)

 *軽ナフサ:30度-100度(ガソリンの原料)

 *30度、液化しないままのガス:加圧し液化すると液化石油ガスとなり、LPG(プロパンガス)になる。

 *底に残ったものが重油:大型船舶(タンカー)や火力発電所で燃料として使われる。

 *さらに底に溜まったものはアスファルトとして使う

9.ウィルスは生物ではない。生物とは生ずれば成長し、繁殖し、外界から取り入れた物質を体内で代謝し、排泄する。バクテリア(細菌)はたった一つの細胞しかない、いわゆる「単細胞生物」だが、一つの細胞が分裂しながら自己保存し、繁殖する。繁殖は遺伝子によって、きちんとコントロールされ、次から次へと受け継がれていく。

 これに対し、ウィルスは多細胞に感染することで繁殖する。みずから細胞を持たぬウィルスは他の生物の細胞に寄生して、分裂し、繁殖することでみずからの生命を維持すると言い換えてもいい。ワクチンはそういうウィルスをつかまえて、不活性化したものであり、これを免疫力をつけるために活用する。

10.人間をはじめ脊椎動物は、ある伝染病に感染すると、治ってからは同じ病気にはかかりにくくなる。体の中に侵入した細菌やウィルスによってダメージは受けるが、抗原抗体反応というものが起きるからだ。こうして免疫の状態がつくられる。

(現今の日本社会のようにサニタリー(衛生)観念が強く、蝿一匹見なくなった社会で育つと、免疫力が落ち、発展途上国などに旅行すると、すぐ下痢したり、発熱したりする)。

11.大腸菌にもいろいろあるが、1990年に浦和の小学校の給食で起こった「O-157」が最強の攻撃力をもつ細菌で、二人の犠牲者を出した。人間には口に入ったものに対して、まず唾液が立ち向かい、ついで酸を多量に含んだ胃液で対応するのだから、それでも大腸まで達し得る根性はたいしたものというしかない。ただし、今後、鳥インフルエンザ、Sarsなどの猛威を予測するとともに、まったく新しいタイプのウィルスに対しても油断してはいけない。

12.クローンは英語で「Clone」、和訳すると、「分枝系」。

13.医療機器の「MRI」は「Magnetic Resonance Imaging」の略称で、日本語では「磁器共鳴影像法」という。MRIは水素原子核の共鳴現象を利用しているが、それは人間の体が蛋白質の細胞と水分からできているからである。

14.宇宙開発に対する夢、関心、興味の点で、世界と若者との比較で、日本の若者が最も低いという統計が出ている。

 もともと宇宙開発は米ソの闘いに始まり、日本はアメリカに部品を届ける形でしか支援せず、独自の宇宙開発プログラムという面では、そのために遅れをとった。アメリカは初めから日本の技術を高く評価していたからこそ、「スーパー301条」を日本政府に強い、サインさせた。日本の液酸液水エンジン「LE-5」の大量納入を打診しつつ。これで、日本はアメリカの宇宙産業の片棒ををかつぐだけの存在に成り果て、独自の実験を行なおうとすると、いちいちNASAからいちゃもんがつくという仕儀と相成っている。

 本書では他に「核分烈」「核融合」についても詳述しているし、ハンチントンという難病についても言及している。相対的に真面目に本のタイトルに沿って解説を展開しているが、書いた時点の古さを感ずるのと、文章にやや雑な印象がある。

 さいごの、「隕石の組成」について俎上に上げながら、ミイラのことはある程度判るが、宇宙を何万年、何十万年飛んだ隕石については明瞭な説明がなく終わってしまったし、「南氷洋の氷」35万年前の氷を採取したことに興奮しつつぶち上げながら、35万年前の大気の組成についてどうであったかについては読み手には知らされずに終わるなど、「わからねぇことまで本に書くんじゃねぇよ」と言いたくなる。だいたい、「ここがわかると科学がわかる」というキャプションで始まったんだから、疎漏なく科学を学ばせて欲しかった。


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