ゴールドマン・サックス研究/神谷秀樹著

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書評:ためいき色のブックレビュー-ゴールド

 「ゴールドマン・サックス研究」 神谷秀樹(1953年生)

 副題:世界経済崩壊の真相

 文芸春秋社より新書初版 2010年10月20日 ¥750+税

 著者には8年間ゴールドマン・サックスで働いた経歴があり、独立後は自らアメリカで起業し、現在に至っている。

 本書はそうした経験をベースに史上最大のバブル崩壊がなぜ起こったかから、金融派生商品を売りまくるという虚業に立脚していたゴールドマン・サックスの「身上書」、世界が蒙った経済的悲惨の実態などをこれ以上になく懇切に説明、あわせてアメリカや日本に明るい未来はあるのか、明るい未来を期待するのならどうすべきかについても私見を吐露している。

 

 資本主義から金融資本主義へ、さらに強欲資本主義へと変貌する潮流のなかで、ゴールドマンサックスは時代の尖兵だった。かれらの仕事は1オンスの金塊を安く買い、高く売って儲けを出すだけという、1オンスの金塊そのものにはなんの変化も起こらない虚業であり、社会貢献はゼロという企業。

 元々はバンカーだった会社がトレイダーになり、「10年、15年という期間でのビジネスから5分先は遠い将来」といわれる業務に変容していた。

 ゴールドマンサックスが伸びた背景の一つに、歴代の1大統領に仕えた財務長官がいずれもゴールドマンサックスの出身者で、大恐慌を防止するため考案された各種の金融規制法を、レーガン以来、一貫して緩和の方向にもってくることに意を用い、かつ成功していた。国民のウォール街への反感を煽りはしたが。

 この企業にも、かつては「一に人材、ニに資本、三に信用、企業としては適正な規模を維持し、高潔と誠実こそがビジネスの核、社員は高い倫理観に基づいて行動せよ」という社是があったし、企業業績が上り坂に入り、社員の年俸が桁違いになった後ですら、CEOは社員に対し「質素に振舞え、生活を広げるな、良き市民であれ」と注意していた。

 その企業が「住宅金融担保証券」(サブプライムローン)に対し大規模な空売りを仕掛けて大儲けをし、結果的に市場を壊してリーマンショックを招き、これが引き金となって数々の悲惨が世界を席巻した。住宅用不動産で200兆円、商業用不動産で300兆円、計500兆円の不良債権が発生。

1)米国では2009年までに165行あった地方銀行が倒産し、2010年に入ってから同年9月までの間に125行が新たに倒産。金融商品を扱っていたベア・スターンズ、メリル・リンチ、ソロモン・ブラザース、ドレクセル・バーナム、いずれも潰れた。これらの企業に共通するのは金融工学が生んだ「レバレッジ」(借用)と「デリバティブ」(金融派生商品)を扱っていたことで、たとえて言えば、市場における「大量破壊兵器」を持っていたことだった。

2)欧州ではアイスランド、ギリシャ、ラトビア、ロシアが破綻、あるいはそれに近い状態。イタリア、ポルトガル、スペイン、アイルランドがなお懸念されている。

3)日本ではバブル崩壊後、20行あった銀行を4行にして、はじめて景気回復の緒につたばかりで、ショックがダブルになった。

 惨劇の後始末を強いられ、経済危機を救うのは各国の政府だが、国民から集めた税金を充当する以外に選択の余地はない。

 (アメリカの金融会社は投資ではなく、投機を行なっていただけのことで、先進各国の金融会社がそれに追随したことから悲劇が拡大した)

 作者は最後に途上国のBRICSを採り上げ、このなかで最も前途が明るく、明日を担うのはブラジルだという。理由は国内に民族対立、宗教的対立、戦争リスク、対政府不満などが存在しないことのほか、ブラジルの国民一人当たりの所得がこの5か国のなかでトップであり、そのうえエタノール製造に力を入れ、原油の埋蔵量も半端でないことを評価対象にしている。

 (エタノールの抽出にはCO2の排出が避けられないと聞くが)。

 著作が3・11災害の後だったら、日本に関する内容にかなりの変化があった可能性がある。

 


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