ソロモンの指環/コンラート・ローレンツ著

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そろもんのゆびわ
「ソロモンの指環」
コンラート・ローレンツ (オーストリア人)著
日高敏隆訳  早川書房刊

 
 本書は1949年の作品ながら、いなまお高い評価を得ている。 世に名高い「動物の刷り込み」理論は地道な観察の結果認識し得た「鳥の習性」、作者はこの理論でノーベル賞を受賞している。

 作者は1903年、オーストリアのウイーン生まれというから、日本が明治維新を迎えて5年足らずの頃、生家の中に動物が自由に動き回れる空間をつくり、彼らの自由な動きを時間をかけて観察した結果をユーモラスに、かつ学問的にしっかり認識しつつ書いている。ただし、本書に採り上げられる動物の大半は鳥だが、家族、ことに両親の絶大な協力なくしては実現しなかったであろう。

 本書から学んだことは少なくない。

 1.魚ほど伝染病に苦しめられる生物はいない。水中という特殊な生活の場では伝染病は迅速に他の個体に伝染し、死をもたらす。 (川、湖、海が汚濁すれば、魚の伝染病は瞬間的に拡大し、それはやがて人類にも決してよい結果を生まないだろうという言葉からは窒素、水俣病を想い起こさせる)。 いま各地で養殖がやはっていて、それが市場に出回るケースが増えているが、万が一、水が汚染されたり、与える餌に問題が生じた場合には、それを口にする一般市民にあっというまに伝播するだろう。

 2.淡水(池や湖)を好んで生活の場とするゲンゴロウの捕食ほどむごたらしい捕食はない。相手の体内の液体をすべて吸い取ってしまう。 残酷さにおいて、ライオンや虎の比ではない。(つい先日もテレビでゲンゴロウがサンショウウオを捕らえて食いつくす場面を見た)。

 3.魚の血は「冷血」ではない。

 4.オスはメスに惹かれ、メスはオスに魅かれのを「異性誘引の法則」というが、鳥ではまったく成り立たない。(オウムは例外)。(ひょっとしたら、オカマは鳥の縁者かも知れない)。

 5.鳥のなかには天敵を本能的に知っている鳥と、親代々による継承によって知る鳥がいる。

 6.カラスも瞬間的に恋に落ちる。それによってそれまで保守的に維持されてきた鳥たちの順位が転覆する。ナンバーワンの妻となったメスカラスはそれまでの地位から一挙に、夫の地位に急上昇する。 こうした僥倖に恵まれた鳥のなかには、過去の高位者を突つきまわすという、人間社会にもよくある俗物的な「イジメ」という振る舞いを行う。

 7.コクマルガラスは長生きの鳥、長年の結婚生活のあいだ、きめこまかい愛情はより深まっていく。絆の深さは周囲も感じ得る。

 8、蟻や蜂がwork-holicに見えるけれども、実態は決してそうではない。一日の大部分をなにもせずにすごしているのが事実。

 9、犬の最初の家畜化はジャッカル、オオカミはジャッカル系犬との交雑によって家畜化された。行動性をもつジャッカルはペットに、大人のオオカミはハンターになった。
 (品種改良された新種の犬のほとんどはイギリス人の手によるが、品種改良の副作用というべきか、往々にして精神的、肉体的な障害あるいは欠陥を負っているケースが多い。さらに自然から受け継いだ本能がペットとされることで減殺され、出産も子育ても人間の助けがないとできなくなっている。犬の祖先は最近のDNAチェックの結果、狼だとの結論が出ている)。

 10.同族で殺しあうのは(飢餓に陥ったときの共食いや、魚たちの闘争は別にして)、人間だけの特許だろうと思っていたら、二羽のキジバトを狭いインドアに閉じ込めておくと、一方が一方をほとんど虐殺してしまう。 そこには抑制のかけらも窺えない。

 と同様のことは、鹿の種類の一つ「バンビ」にもあてはまる。残酷さ、残忍さは外見からでは判らないのは人間も同じ。

 11.一方、獰猛で知られるオオカミの場合、負けを認めた側が己の急所を相手の牙のまえにもっていくことで、負けを認める。それを確認した勝者もそれ以上の行動には出ない。この自己抑制はいわば「騎士道の精神」にも匹敵するものがあり、ヨーロッパ人がこのレベルに達するまでにはキリスト教による新たなモラルの徹底と遵守が必要だった。(犬にもこの習性は受け継がれている)

 さいごに:

 ローレンツが没した1989年以降、動物行動学は当然ながら変貌もし、発展もしてきたが、ローレンツの残した観察と、研究は、「動物行動学」のためのさきがけをなしたという点、さらには彼の研究には、どれをとっても、あくなき生物への愛に裏打ちされた探求心が窺え、この精神がローレンツの著作を今も若者が読み続けるよすがとなっているような気がする。

 昆虫を書いた「ファーブル昆虫記」にも匹敵する面白さ。動物の好きな読者、少年たちにぜひ勧めたい書籍。


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