トム・ゴードンに恋した少女/スティーヴン・キング著

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トム・ゴードンに恋した少女

「トム・ゴードンに恋した少女」
スティーブン・キング(アメリカ人/1947年生)著
原題:The Girl Who Loved Tom Gordon
訳者:池田真紀子
1998年アメリカで初版/2004年新潮社より単行本
2007年6月 新潮社文庫本初版

 

 著者は「モダン・ホラーの帝王」との評価を得、幻想文学大賞を獲得したベストセラー作家、メイン州生まれ。

 本書の主人公は少女、アパラチア山脈の遊歩道を母親と兄と三人で歩いているとき、小用がしたくなり、後方から二人に自分のニーズを訴えたが、二人は口喧嘩に夢中で、少女の言葉に気づかない。少女は仕方なく、わき道に入り目的は達したものの、遊歩道に戻らず、川に沿っての別行動に出たため、深い森のなかで約1週間にわたり、生死の境で彷徨する。

 タイトルにある「トム・ゴードン」とは当時メジャーリーガーのレッドソックスに在籍した抑えの投手で、少女にとって憧れの選手だった。森の中を迷い歩き、夜中は大木の洞(ほこら)のなかなどに寝ながら、ウォークマンで野球中継を聞きつつ、昼間はゴードンに話しかけ、精神が萎えてしまうことを自ら救うという話。

 食料が尽きると、ゼンマイを食べたり、どんぐりを食べたり、川の水を飲んだり、結果、吐いたり下痢したり。蚊、ブヨ、スズメバチに刺されたり、転んだり滑ったりし、全身傷だらけになりながらも、メイン州から歩きはじめてニューハンプシャー州に入り、カナダで救われる。(ドングリはタンニンが含まれ、食用には適さないと一般に言われる)。 

 本書は成り行きまかせで、思うままに書いたと作者が言うのに対し、訳者は「にも拘わらず、どうしてこうも面白いのだろうか」かと賛嘆しているが、私にはそうは思えなかった。

 小説は所詮は空想の上に成立する「ありもしない話」ではあるが、本書の展開には真実味がなく、明らかに空想でしか書けない内容が多く、その事実が読む者から緊張感を奪い、だらだらと余計なことを書きすぎている感が強い。幼児用のホラー小説といった印象で、心を揺さぶるような小説ではなく、感動的でもなかった。また、ホラーを書いているつもりらしいが、ホラーすら感じなかった。

 たとえば、同にように深い森を歩く話なら、南米の山地に墜落した飛行機から数人だけが助かる話、死人の肉を口にしながら、生き延びる話のほうが、はるかに緊張感があり、かつ感動的だった。


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