ドイツものしり紀行/紅山雪夫著

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「ドイツものしり紀行」 紅山雪夫(1927年生)著
新潮文庫 2005年6月初版
1993年 「新版ドイツの城と街道」とのタイトルでトラベルジャーナルから単行本として刊行

 ドイツ人を、ドイツ民族を知りたくて入手したが、まったくの勘違いだった。

 歴史についても、史実を系統だてて解説する内容ではなく、その意味でも期待は裏切られた。辛うじて、ドイツが西欧の他国に出遅れたことの一つの原因が、300を越える小国が乱立していたことにあるとの背景説明があったが、その史実は多少でも西欧の歴史に関心をもつ者には常識にすぎない。

 「本書は観光案内ではない」といった書き出しで始まりながらも、私の印象としては「観光案内に毛が生えた内容」、と言って悪ければ、あくまで「旅行案内書」の域を出ない。

 「日本の鎌倉時代にドイツにはすでに病院があった」などという記述は、ほとんど蛇足というもので、極東の島国と、ギリシャ時代から学問的遺産を引き継ぎ、ローマ帝国の共和制政治や謀略から諸々を学び、ヨーロッパ大陸のなかに勃興しては滅亡し、また台頭してくる勢力と支配地域の変遷などを経験した西欧の国とを比較すること自体、意味がない。

 建築物についても、日本は地震国であり、それがゆえに木材を使った特殊な建築様式がある。これをほとんど地震のない西欧の建築様式と比較しても、読み手としては納得感がなく、史上の特別な人物についてのエピソードくらいが読むに耐える内容で、あとは百パーセント「旅する者への案内書」に徹すべきだったと思量する。

 作者に逆らうようだが、観光は観光であって、ごく限られた時間を有効に使って、現地を、現地のガイドに依存して、覗いてみるだけのことで、観光客自身がそのツアーの限界を知っている。現地を限定観光することでその土地を知ることができるとも夢思っていない。また、訪問期間を多少長くしたところで、土地の人間との真の触れ合いや、その土地の真の姿に接することはまずできないだろう。知ろうとするのならば、その土地に居住し、その土地の言葉を身につけなければ、何年居住したところで、それなりに限界がある。

 ただ、作者がきわめて誠実な人柄であることは文体から匂ってくる。


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