ニッポン・サバイバル/姜尚中著

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ニッポン・サバイバル
「ニッポン・サバイバル」
姜尚中(東京大学大学院情報学教授)著
2005-2006まで、集英社女性誌ポータルサイトに掲載されたものに加筆、修正を加え上梓
集英社新書  2009年7月初版

 
 出身、体内に流れる血、勉強した地、それぞれがうまく噛みあって、よくアジア諸国間の軋轢や相違や間違いを知悉しており、参考になる内容だったとはいえるが、内容の一部に意見の衝突があるので、遠慮なく反論を展開する。

 本書はこの息苦しい日本でどうしたたかに、且つしなやかに生きるべきかを中軸に据えて書かれたもの。

1.日本、中国、韓国はいずれも成りあがり者、消費を通じてしかアイデンティティをもたない。金持ちが勝ち組で、貧乏人は負け組みだという発想。

(この点、BRICS四国も発展途上国から成り上がりになろうとしているし、先進国は成り上がった国なのか?、著者の思考回路でいえば、過去のあらゆる強国にせよ、文明にせよ、すべて成りあがり者にすぎない。特に中国は鉄や地下資源を狂ったように探し回り、産業廃棄物を河川や海に放擲して平然としている。その影響は第一に隣国の朝鮮半島に影響し、遠くない将来、日本に影響することは見えている。韓国はこの問題を中国に思いきりぶつけてもいい立場なのではないか。黙っていたら、国土はめちゃくちゃにされるわけだから)。

2.サッチャーがかつて新自由主義は国家の役割を縮小し、民間による効率やサービス向上を目指す能率主義こそ理想的であると主唱、再配分のメカニズムを断ち切る政策を採り、結果として勝者と敗者を産み出してしまう「弱肉強食」社会を作ってしまった。(現在のイギリスは作者の言うような社会形態を採っていない)。

「日本がアメリカ型の市場原理を金科玉条として推し進めるかぎり、富裕層と低所得者層の二極化が進行することは間違いない。現にその方向に進んでいる」

「格差社会は犯罪を増やし、子共の教育にも大きく影響する」。受験戦争に置かれた子共には情操教育に接する時間的余裕がない。(作者の言わんとしていることは良く理解できる。この国の教育は根本的に考え直すべきだ)。

3.「現在の日本には個はあっても、連帯感が希薄」。
(これも、アメリカナイズされた核家族化の末路の一つだし、地域社会の破綻も同じ。それにしては、作者が述べる世間を気にする風習はアジアに特徴的で、それが実態のない拘束力をもっているという話と、連帯感の希薄という問題は背反しており、きわめて皮肉なことである)。

4.「アルゼンチンのペソが暴落したことがあり、そのとき機能したのが地域通貨だった」。インフレ経験のある人々、迫害され逃亡生活を送った経験者、華僑、印僑、インドネシア人、ユダヤ人らは金を貯めては不断にゴールドや宝石を買い、万が一に備える習慣を持っている。通貨は紙ぺらに過ぎないのだから。

5.「物質的豊かさより精神的豊かさという言葉はただの空念仏に過ぎない。物事を量ではなく質で捉える定性的な座標軸を人々は求めている」。
(物質が必ずしも幸福と直結しないけれども、精神的豊かさが物質なしで達成されるものでもないという意味であろう)。

6.「日本人には生まれたときから自由が与えられているため、自由の尊さが解っていない」。
(同感というしかない)。

7.「自由は扱いずらい対象である。社会に敗者復活戦の機会が失われていると、自殺者が絶えない。日本では2005年から2008年までに1年に3万人以上が自殺している。年齢、性差別、学歴差で、人の可能性を決定したり閉じたりする社会を「自由な社会」とはいわない」。
(的を得た意見)。

8.「自由と安全とは二律背反のテーマであり、安全の強化は自由の否定に繋がる。予測可能なノイズが適度に侵入してくる社会の方がしなやか。そうでない社会は狭量で、度量の小さな(硬直的な)社会になる」。

9.「自分の好きな仕事に初めから就ける人はほとんどいない。また、自分がどんな仕事が好きかが若いときから決定的な人というのも僅かである。与えられた仕事をとりあえず懸命にやってみる、努力してみる、そこから新しい何かが見えてくる可能性がある」。
(同感)。

10.「仕事だけが人生ではない。人生にはもっと様々な側面がある」。
(とはいえ、仕事なし、収入なしでは生活が成り立たない)。

11.「新しい職種がどんどん増えているのに、社会における仕事のプレスティージはあまり変化していない。今後は社会からの評価を期待するのではなく、みずからがその価値を判断する、そういう社会に変容していくだろう」。
(社会的にプレスティージのない職種に就いていると、家を賃貸する場合、持ち主は貸したがらないというのが社会の実態としてある)。

12.「人生とは人との出遭いであり、人との接触である。性差の社会問題は世界中ほぼ同じレベル」。
(女性しか子共を産めないという条件は人類の抱えるシリアスで永遠の問題)。

13.「テレビ局はその公共性、公益性を主張するが、スポンサーの意向もあり、視聴率を上げるために、低俗な番組づくりに走りやすい。その点では、新聞のほうがまともな報道機関だといえる」。
(民放TV番組は写真週刊誌のレベル)。

14.「『リアルな接触』あるいは『リアルを見る』機会がないと、勉強という抽象性を伴う作業は切実な記憶として残らない」。
(現在の日本ではテレビではボカシが入るし、死んだ人間だけはすでに人権を失っているという思想があるらしく、顔写真を堂々と放映する。

(また、子共が勉強することに疑念をもつのは、まず教師が自分が担当する教科のすばらしさ、なぜ自身がその教科に専心、埋没したか、教科の魅力を情熱をこめて語ることをしないからであり、次にPTAと称する親たちの過保護と学校への過剰なクレームにある。そのような環境のなかで、そのうえ安月給に耐える教師がいるとしたら、ぼんくら教師以外にはあり得ない。現在の2倍、3倍の給料を与え、人材を募り、教師の人間的質を上げることに意を用いるべきだ)。

15.「本を読むことは大切」。
(人間には役に立つ、立たないとは別に、知識欲というものがある。知りたい欲である。読むことで未知が解る、その積み重ねが知恵を生み、ときにすばらしい直観、インスピレーションに結果する)。

16.「中国、韓国の反日運動に対する日本人の反応は歴史認識の不足が原因」。
(歴史認識不足は中国、韓国にも言えるのではないか。植民地拡大が至上主義の時代、中国を最もいじめたのは日本ではなく、ロシア、イギリスを含む西欧の列強である。中国に阿片を持ち込み、都市を阿片窟だらけにし、二度も戦争をしかけて香港を強引に割譲させたのはイギリスであるのだから、中国人は対日感情とともに対英感情も悪くなくはおかしい。また、満州から日本が退いた後、居座ったのはロシアであった。朝鮮半島を併合したのは西欧の植民地拡大主義の模倣であり、朝鮮半島併合は西欧各国がロシアの南下を恐れたがゆえに承認したことでもある)。

(長い歴史のなかで、中国は恒常的に朝鮮半島をいじめている。モンゴルが中国に元を創立した時代、元は朝鮮半島にも出兵して山河を荒らし、君臨し、領土を蹂躙、あげく半島の木材を伐採させ、造船させ、日本の北九州まで二度にわたって操船させ、侵攻に協力させた)。

(現今では、チベット越境による抱え込み、モンゴル高原と内モンゴル地区の領土化、ミャンマー軍事政権へのバックアップ、中近東への兵器輸出、といった自らが行なった、あるいは現に行なっている悪行についてはどう考えているのか。また、著者に逆らうようだが、中国政府はメディアを統制し、政府見解を国民に強いて、真実を伝えないという歴史を歩んでいる。それが原因となって内乱が起こると、国民の目を日本に向けるという汚らしい姿勢を変えようともしない)。

(経済復興への努力、速度は朝鮮戦争における特需のおがけであることは事実だが、日本人の努力、勤勉、賢明さの結果であり、敗戦国が経済的に復興が早かったことを嫉妬する国の反日運動はお門違いというものだ)。

(「韓流」はあくまでNHKの「冬ソナ」のおかげだろう。あれ以後、私の親しくしている知己が初めて「実は、自分の娘の婿は在日韓国人なんです」「実は、息子の嫁は在日韓国人なんです」と私に打ち明けた。そういうメリットがあったということは間違いがない)。

17.作者は宗教について盛んに語るけれども、キリスト教徒が世界で一番人殺しをしてきたのは事実である。

 宗教があり、各宗教派閥があり、それぞれがいがみあっている状態は長く続いている。それに比べたら、宗教などないほうがはるかにましではないか。欧州各国は10-20%は、過去に植民地にした国の人間を移民として受けいれてきたが、一種の尻拭いというしかない。欧州でアラブ人が就職難に陥っているのは現にアラブ人がテロをやっているからで、宗教から逸脱したアラブ人と逸脱しないアラブ人とを識別するのは難しい。

18.「日本の細長い国の形をからいって、核戦争には弱いし、不利だという判断を佐藤内閣のときにすでにシュミレーションで行なっている」。
(初耳)。

19.「憲法と現実との乖離はどの条文にもあてはまる。憲法は一種のフィクションだが、それが建前として存在することによって律せられ、フィクションからノンフィクションに近づけていく努力が必要」。

(憲法9条を後生大事に守っていきたい気持ちは解るけれども、戦争に対する備えというものは常に万が一に備えてのものであり、日本が積極的に戦争を仕掛けるということを言っているわけではない。世界の現実は、軍事力を背景として持たない国は外交に迫力が欠け、国連での発言力が弱い)。

20.「韓国の男が日本の男よりびしっとして見えるのは徴兵制度の存在が影響しているからではない。南北に分断されている状態が緊張を強いるのだ」。

21.「快、不快の問題と幸福と不幸の問題は次元が違う。幸福は寿命が延びるほど個人の人格の深さと結びついてくる」。

22.「社会のなかで永続的なものはない。運も不運もあるし、いずれもいつやってくるか判らない。人生に解答の出せない問題、事態、境遇、事故は幾らもある。笑うとき、泣くとき、嘆くとき、いずれも誰にでもやってくる。欲望には切りがない。足るを知る者は倖せである」。


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