バカの壁/養老孟司著

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バカの壁

「バカの壁」 養老孟司著  新潮新書

 

 著者が、大学で教鞭をとりながら、学生にものを教えながら、世間を見ながら、はらわたが煮えくりかえっている様子が想像され、同時に、それを抑えに抑えて本書を著したという印象を受けた。

 だからというべきか、文章はやわらかいものの、いってることはかなりきつく厳しい。印象深い内容を以下に記す。

1.現代人はテレビで映像を見、解説を聞いて、すべてがわかった気になっている。 現地でディテールをみるのとは大違い。真実を追究する習慣が欠落している。

2.地球の温暖化は事実である。しかし、温暖化の原因が炭酸ガスだというのは可能性としては80%正しいかも知れないが、あくまで推論である。

3.人間には意識している時間と無意識の時間とがある。 意識している時間だけがあるのではない。

4.人間は生きているかぎり悩む。

5.「神」のような抽象概念は頭脳の演算装置のなかでぐるぐる回転されて創られた。

6.人間はころっと忘れるもの。戦前の人が現代のホームレスを見たら、どれだけ羨ましがることか。

7.人の脳は均質で、個人差はない。神経細胞とグリアと血管、それだけ。脳の働きは興奮するか抑制するかの二つしかない。 神経線維のなかを刺激が伝わる速度は音速。 利口かバカかは脳を見てもわからない。 社会への適応性でみるしかない。

8.この国では、現在、肉親以外の死体を見ることはほとんどない。テレビで映すことはタブーとなり、今の若者は死体を直視することに堪えられない。 (少なくとも、アメリカ、ドイツ、インドネシアではテレビ放映で人間の死体を剥き出しにする)。

9.教育問題を「素人談義」でやってもはじまらない。

10.仕事の効率化、合理化を進めるのなら、並行して仕事の再配分を考えるべだ。

11.学者は人間はどこまで利口かを追求する。 一方、政治家は人間はどこまでバカかを考える。

12.すべてのものの背景には人間の欲がある。欲があるから進歩もあるが、野放図にすると収拾がつかない。ほどほどにというのは仏教の教え。

13.無惨な死体を見たくないのは兵士も同じ。だから、遠距離から殺戮できる武器がどんどん開発された。ナイフでの殺し合いなら、血しぶきをあげて倒れる相手を目のあたりにする。当然、人間としての抑制力につながる。死体を見ずにすめば、殺戮にブレーキはかからない。

 (アレキサンダー大王や、ペルシャのダレイオス王、元のクビライが指揮した兵士たちに直接このことの真偽を糺してみたい)。

14.都会化された人間は弱い。

 (中越地震時、インフラがどうなったかだけ考えても納得できる)。人間自身が自然の産物である事実から離れすぎているため、人間の動物としての自然な行為に自信がもてないだけでなく、無頓着にもなっている)。

15.物事を一元論的に割り切ろうとすれば必ず失敗する。 

16.「バカの壁」とは、バカは壁の向こうになにがあるかに気づかないのではなく、壁の存在にすら気づかない。


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