ヒカルの碁 勝利学/石倉昇著

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ヒカルの碁 勝利学
「ヒカルの碁 勝利学」 石倉昇(1954年生/プロ棋士9段/東大客員教授)著
2009年2月25日  集英社より文庫化初版
¥476+税

 
 本書は「週刊少年ジャンプ」に連載され、囲碁ブームに火をつけた、人気コミック「ヒカルの碁」を軸に、東大を卒業し、脱サラをしてプロになった異色の棋士が、囲碁の世界の楽しさ、奥深さ、囲碁の効用と必勝法、プロ棋士の生活などに関して語る内容となっている。

 本書の目的は、あくまで囲碁の普及にある。

 現在、世界に散らばる囲碁人口は、中国が2、500万人、韓国が900万人、日本が350万人、台湾が150万人、タイ100万人、アメリカ50万人、ロシア10万人、イギリス5万人、ブラジル3万人、オランダ2万人、ドイツ2万人というところらしい。

 むろん、世界に囲碁人口が増えた理由はインターネットの普及によるもので、相手の顔を見ずに対局できるという簡便性がなによりもフアンを獲得した理由だろうが、さらにいえば将棋やチェスのような異なる能力を付与された駒で争うのではなく、打った手によって優劣が決まるという公平で解りやすいルールが評価されたのだと思われる。

 西欧のチェスの名人はコンピューターに簡単に負けてしまったが、囲碁がコンピューターに負けることは絶対あり得ない理由は囲碁が実利を追うだけの勝負ではなく、盤上を広く視野におさめつつ常に大局観をしっかり頭脳にインプットしておくという右脳の占める領域があるからで、その事実が外国人にも新たな魅力となって認識されているのではないだろうか。

 (将棋はスーパーコンピューターに負けた・2012年)

 囲碁は元々中国から入ってきたものだが、徳川家康がこれを厚遇し、碁打ちを保護する政策を採ったおかげで、四つの家元ができ、それぞれ江戸末期まで連綿と続き、江戸城では毎年一度、城内で各家元から代表が出て、いわゆる「御城碁」を打ち、家元としての権威を背負って死闘をくりかえした歴史がある。結果として、本因坊家が傑出した棋士を輩出したが、本因坊を中心とした当時の棋譜が今でも残っている。

 ために、家康の時代から長期にわたり、技術の研鑽が積まれ、囲碁は日本で花開いたといっていい、

 そして、各新聞社がスポンサーになって、名人戦、棋聖戦、本因坊戦、王座戦、十段戦、NHK早碁戦などが、いわゆる棋戦として確立し、棋士がプロとして生計が得られるようにもなり、その間、中国から天才といわれた呉清源が来日、帰化し、新布石を発表、日本の高手をすべて打ち破って、その実力のほどを見せつけた。

 戦後、だいぶ経ってから、台湾、韓国、中国にも強者が輩出、日本に来てプロ棋士になった人もいれば、韓国のように日本の手法を倣い、棋戦を催し、プロ棋士の生活の充実を図った国もある。

 ただ、囲碁の世界戦が開催されるようになると、スポンサーは大抵の場合、日本企業であり、優勝賞金は中国人や韓国人の目からは莫大な金額であり、これまで開催された世界戦のほとんどの優勝者は中国棋士か韓国棋士である。「日本棋士はだらしない、情けない」と、私はなんど思ったか知れない。むろん、日本人棋士が優勝したこともある。

 中国で囲碁が流行した理由はわかるような気がする。囲碁を打つのに金はかからないという利便性があったからではないだろうか。盤は板でもいいし、固い紙でも用を足してくれるし、石は必ずしも白はハマグリ、黒は那智石である必要はなく、プラスチックでも、場合によってはボール紙でもいい。器具がお粗末だからといって、技術までお粗末になるわけではなく、むしろ、人口的底辺が広いことが優秀な棋士を生む土壌となる。その意味では、今後とも中国から強者が輩出してくることは否定できない。

 作者が、「囲碁は相手にも与えるという、バランス感覚が大切なことだ」と力説するのには全く同感だが、「こうしたバランス感覚を学ぶことが人生でも役立つ」ことも、そうだろうとは思うけれども、現実の囲碁界を牛耳るトップクラスの棋士には変人、奇人が多く、世間的な感覚からみたら決してバランスの良い人柄という印象からは遠いことも事実。

 そのことはとにかく、作者が囲碁教室を開き、少年、少女を指導し、囲碁の普及に努めていて、本書も普及を願うあまりの一書と位置づけられる以上、その意図には双手を挙げて応援したい。

 ちなみに、私自身はアマチュア二段だが、実戦はここ20年打ったことがなく、NHK教育番組の日曜に放映される早碁棋戦を楽しみに見るだけ。


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2 Responses to “ヒカルの碁 勝利学/石倉昇著”

  1. より:

    週間→週刊、むるん→無論、新聞者→新聞社

  2. hustler より:

    コメント欄からは割愛させてもらいましたが、誤植を指摘していただき、ありがとう。

現在はコメントを受け付けておりません。

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