ビルマの竪琴/竹山道雄著

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「ビルマの竪琴」  竹山道雄(1903-1984)著
1959年4月15日 新潮文庫初版 ¥400+税

 

 太平洋戦争を扱った小説としては最も著名な書のなかに入る一書であり、むかし映画化もされ、多くの観客を泣かせもした。

 内容は、ビルマ(現ミャンマー)の戦線で英軍の捕虜となった日本軍の兵隊たちが収容所から出され帰国を許される日がきたとき、一人だけ帰国の船に乗ろうとしない兵士がいた。

 戦地で多くの日本兵の腐乱した遺体や白骨を目にしたことが、戦地となったビルマの全地域を回ったらどのくらいの日本兵の遺骸があるか知れないとの想像から、それらを放置したまま帰国することはできないとの決意に達する。ビルマ人の僧侶と同じ服装をし、全土を経めぐり、遺骸を拾い、焼き、土に返し、祈りつつビルマの地で一生を送ることを心に誓う。

 竪琴は主人公がビルマの竹で造った楽器であり、その兵士は戦友たちが帰国を前に合唱する「からたちの花」「荒城の月」「庭のちぐさ」「ほたるの光」などなどにその楽器を使って伴奏をしたが、人々(英軍兵士を含め)の心を格別に揺さぶった歌は欧州人の作曲による「はにゅうの宿」だった。

 「一緒に帰国しよう」という戦友らの声を振り切り、自分の思いと決意とを隊長への手紙に託して、異郷の地に残った一人の男、その、竪琴を肩に佇立する姿は読書する人の脳裏に深い哀感を投影する。

 作者は評論家であり、ビルマに行ったこともなく、戦後数年して徐々に明らかにされた各戦地での実態に想像力を加え、この物語を少年少女向けに書いたという。したがっては、文章は簡明、簡易であり、殺伐とした当時の世相に対し「心に潤いを」という意図をこめたことが窺える。

 終戦記念と同じ八月にこの著作に出遇ったことも、現ミャンマーの軍事政権が今年の秋に総選挙を行なうことを宣告したこととあわせ、なにかの縁を感じさせるに充分だった。

 ビルマでの戦役は、実際には「インパール作戦」といい、参謀本部はこの一国に30万の日本兵士を送り込んだものの、食料や弾薬の補給もままならず、結果的には19万の兵隊がイギリス・インド連合軍に迎え撃たれ、死亡、生き残った兵士は捕虜となり、一定の収容期間を経て帰国しているが、ビルマあるいは隣国のタイに残った日本兵も数人いたであろうことが確認されている。


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