フランスものしり紀行/紅山雪夫著

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「フランスものしり紀行」
紅山雪夫(1927年生)著
1994年4月 トラベルジャーナルより単行本
2008年5月1日 新潮社より文庫化初版
¥590+税

 

 フランスを旅した紀行文だと勘違いして入手したのが、そもそもの間違いだった。

 内容はフランスにごまんとある建造物(史跡、城跡、宮殿など)を含めた説明書で、労作であることは判るけれども、同国を何度か訪れた経験者か、これから訪問しようとする者にとっては、面白いし、役立つかも知れないものの、フランスに関する知識の乏しい読者にとっては、建造物や庭園や風景についての解説と、それらに付随して語られる多くの人物や歴史が書中の小さな写真を頼りにしても、脳裏に混乱を生むばかりか、次第に退屈きわまりないものとなってしまう。

 要するに、観光スポットをひとつひとつ説明する、この種の書はまとめる上でも、読ませる上でも、非常に難しいことになり、たとえば私自身が6年を過ごしたバリ島に関し、同じ目的で一書に纏めるとしたらと何度も考えてみたが、第三者に抵抗なく読んでもらえるように観光スポットについて読者を飽きさせずに書くことは至難の業であることを納得せざるを得なかった。

 せっかくの歴史的な説明にしても、建造物を中心に解説すれば、必然的に時系列は無視され、読者は前世紀に往かされたり、18世紀に飛ばされたり、そのめまぐるしさに次第に頭痛を覚える。

 フランスに見るべきものが多すぎることが、本書を総花的にまとめあげざるを得なかった理由であろうが、結局は平坦な文章になってしまい、説明されたどのスポットも記憶には希薄になってしまう。

 むしろ、本書が作者の「フランス滞在記」のようなドキュメンタリータッチのものだったら、魅力的な一書に結実したであろうなどとも考えた。

 2009年4月26日に本ブログで書評した中村江里子の「わたし色のパリ」は内容的にははるかに軽いけれども、読者に読ませる、読者を得るという点では、成功している。それは対象空間はごく狭いながら、本人の実体験に基づいた記述だからである。

 フランス人と日本人とのあいだには相似した精神、哀感があり、たとえば「侘び」「寂び」の感覚を理解してくれそうな欧州人といえば、まずはフランス人ではないかと思えるし、もともと江戸期の浮世絵に戦慄したのもフランス人であり、現今では日本から持ち込んだ「回転寿司」「ユニクロ」「ラーメン店」「漫画喫茶」「コスプレ」「アニメーション」などにもフランス人は積極的にかかわっている。

 そういうフランス人の面を強調して書いたら、日本人はフランス人にもっと親近感をもつだろうし、意外なことだが、日本とフランスとは互いにうまくやっていけそうな気がしてならない。


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