ホテルアジアの眠れない夜/蔵前仁一著

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書評:ためいき色のブックレビュー-ホテルアジア

  「ホテルアジアの眠れない夜」  蔵前仁一(1956年鹿児島生まれ)

  副題:椎名誠氏絶賛の旅本

  1989年凱風社より単行本初刊

  2004年6月15日 講談社より文庫化初版  ¥540+税

 本書は著者の20年前の、主に途上国での体験記であり、国によってはその頃から大きく飛躍したり、変化した国もあり、内容を鵜呑みすると誤解や誤謬に結果する可能性もある。

 だいたい、この種の体験記は、長期日程を組める学生か、会社を辞職した若者に限られ、いわゆる「バックパッカー」として、最低限の生活に耐え、リスクにも対応する覚悟で海外に足を運んだ内容である。

 言葉を換えれば、日本の狭苦しい社会に対応できない、もっといえば日本の社会からの落ちこぼれがバックパッカーになる例が多く、感性的に、一般の日本人を代表するものでは決してない。

 著者はたまたま自らの体験を本にまとめることができ、それを出版してくれる会社があったために、印税を得る立場となり、バックパッカーをしながら、生計が得られるというポジションを獲得した稀な例である。

 内容から目が止まった箇所を挙げると:

1.ネパールでは、一日を宿泊代を含め、210円で過ごすことができる。インド、中国の一部地方も同じ。欧米では、どんなに節約しても、1日¥2,000はかかる。尤も、これでも、宿泊は野宿というケースが多い。

2.病気はマラリアと肝炎が怖い。

3.最も気を使うのは水、安全なのはミネラルウォーターを飲むこと。ちなみに、インド人は水道の水を飲むので、自分も倣って水道の水を飲む。砂漠では1.5リットルのミネラルウォーターを2本ぜんぶ飲み干してしまうが、すべて汗で出てしまう。

4.荷物はできるだけ軽装にする。枕サイズのバッグ一つにポロシャツ1枚、ジーンズ1枚、下着2セット、小型ノート1冊、裁縫道具一式、洗面道具一式、あとは現金とパスポートを首から吊るし、腕に腕時計という出で立ち。

 (旅行を軽装にするのは、バックパックの旅でなくとも、旅行に慣れた人間なら、誰にとっても常識)。

5.土地によって、時間の流れ方が違う。

6.シリアで買った地図に、イスラエルはない。

7.日本で売っている世界地図に、欧米人は呆気にとられる。(どこの国でも、世界地図は自国が世界の中心にきている)。

8.アメリカでタバコを吸わない人は多いが、大麻を吸う人は多い。大麻には習慣性がないからだ。

9.日本のような、すべてが決まっている国で育った人間は、海外の、とくに途上国でのショッピングでは相当にぼられるだろうし、現地通貨との交換では、相当ごまかされるだろう。

 (日本人のように、他人を根拠もなく信用する民族はほかにいない。釣銭も、通貨交換後の札も数えないのも日本人。島国育ちの甘さが見透かされるのは当たり前)。

 バックパッカーの旅の目的地は手持ちの金が決めるようなもので、決して物価の高い国、ホテル代がバカにならない国には行きたくても行けない。必然的に途上国に限られる。そういう国では、たとえ言葉が通じなくとも、ある程度、優越感をもっていられるという側面もある。

 バックパッカーのハシリは、なんといっても、沢木耕太郎の「深夜特急」だが、この本と比較すると、「ホテルアジア」は迫力に欠けるだけでなく、ドキドキ、ハラハラ感が全くない、読者を牽引する力がいまひとつ。

 とはいえ、バックパッカーとしての体験はほとんどの日本人には無縁であり、こういう人がいないと、理解できない世界というものが存在することもまた事実である。


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