マイマイ新子/高樹のぶ子著

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書評:ためいき色のブックレビュー-マイマイ

  「マイマイ新子」  高樹のぶ子(1946年生)
   2009年4月1日 新潮社より文庫本として初版

 

 この著作は、いわば「童話」である。

 作者がこれまでに世に出した作品に比べ、際立って異質のものであり、ために多くの高樹フアンを驚かせもするだろうが、作者としては現代日本の実態、実情を目の当たりにするにつけ、ありし日の、自然に戯れた日本人の姿を描くことにより、日本がこれまでに喪失してきたものへの郷愁、懐旧の情はもとより、失ったものの大きさに覚醒させようとの意図を強く感ずる。

 

 モチーフは確かに、解説者の言葉通り、「鮮度100%」」ではあり、昭和30年にラジオを通して流行した言葉、たとえば「笛吹き童子」「紅孔雀」「スクーターをラビットと商標で呼んでたこと」などのほか、アイスキャンディーをおじさんが自転車で売りにくる風景、「紙芝居を楽しみにした時代」、さらには「検便はマッチ箱に入れて学校に持参し、回虫の薬をもらって尻から出す行事化」「隠れ家的なものを仲間同士でつくる楽しみ」「田圃や小川で、季節に応じ、ザリガニ、フナ、メダカ、蛇、ドジョウ、蛙、ウナギ」を、畑や山では「バッタや、キリギリスや、鈴虫を採り、蛍狩りをし、「山栗やキノコを拾い、風が吹けばシイの味を拾い、ときに筍を掘り、運がよければアケビを見つけ、山菜採りに夢中になった時代が髣髴する。

 主人公は作者自身であり、彼女が9歳の頃の映像が全編の背景を覆っている。ちなみに、作者は本書を発想するにあたっては「赤毛のアン」が胸中にあり、「マイマイ新子」のマイマイは新子の頭には二つのツムジにあることからの題名らしい。というより、二つのツムジを発想して生まれた童話小説といっていい。

 とはいえ、こうした懐かしい光景が即座に蘇るのは、作者と同じ年齢か、前後の人間に限られ、ところどころに登場する古い流行語やラジオドラマの名などは、若年層にはチンプンカンプンで、結局、胸を震わせるのは、中高年以上の読者に限られるのではないかという危惧が脳裏を去来する。

 高樹のぶ子作品のなかで、といってすべての作品を読んだわけではないが、本書により多くの作品群のなかに一つの峻拒した山を構築したことは事実だし、この実績を認めることにやぶさかではない。こうした作品を世に送る姿勢には、あらためて賞賛の拍手を送りたい。


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