ママ、南極へ行く!/大越和加著

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ママ南極へ行く

「ママ、南極へ行く!」 大越和加(海洋学者)著
帯広告:地球サイズのファミリードラマ
2003年11月主婦の友社より単行本初版
2010年4月20日 同社より文庫化初版
¥762+税

 

 本書の裏表紙には、「海洋生物学者のママは、南極観測史に燦然と輝く(はずの)初めての「ママさん隊員」。小学生の娘と息子を日本に残して、雄大な自然の中で見たものは?」という著作の内容を的確に表現した文章がある。

 実のことを言えば、私自身は沖縄の暖海をベースに10年余り、琉球総合大学の海洋学科の教授を顧問に迎え、クラブをつくり、そのネットワークを使って教授から発見、捕獲を依頼された古生代の生き残り生物の発見に成功したこともあり、プロを含め実力のあるダイバーを会員とした自慢の組織だった。

 ということもあり、自然、この著作の帯広告や「あとがき」などから感じられるものから察して、この海洋学者から南極海の海洋生物についての説明が詳しく学べることを期待するのはお門違いかも知れないとの惧(おそ)れを抱いたが、危惧はそのまま当たってしまい、著作は一海洋学者の母親と小学生の娘、息子、夫(同じ海洋学者)、著者の父親ら5人が、著者不在の時間、約4か月をどう暮らしたかをメインに描きながら、母親でありながら南極観測という稀有の機会を与えられた学者として、みずからの人生観を語った内容のものに結実している。

 それは著者がさいごに、「地球の悠久の歴史の中でほんの一瞬でもこの星に存在して、だれかと会い、何かを知ることができるなんて、奇跡以外のなにものでもない。その奇跡を大事に生きたい」と纏(まと)めている言葉に集約されている。

 ちなみに、作者が乗艦した「しらせ」は2009年に引退し、2010年からは同じ名をもつ新艦が運航されている。

 南極は日本の37倍のサイズ、平均標高2300メートル、最高海抜4800メートル、氷の厚さは平均2450メートル、ということは陸地はほとんど水面下にあり、水面より上部はすべて氷という土地。

 このときの観測隊には純粋な観測隊員のほか、自衛隊員、特殊な研究を目的とする学者などが同乗するが、母親という立場の学者が乗艦したケースはこの著者以前も以後もなく、今日に至っているという。

 僅かながら、南極の冷海に生息する生物として、ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ナマコ、ヒモムシ、コケムシ、タコ、海老、ガラスカイメン、ウミシダ、多毛類などが紹介されているが、どれもが骨も甲も脆く弱いという共通点があることを学ぶことができた。また、植物としては、氷しかない土地であり、露岩地帯にコケがあるだけという状況らしい。

 むろん、南極特有の気象、夏は太陽が沈まず強烈な紫外線が降り注ぐ、冬は逆に毎日が真っ暗で気温が零下の日々が続くなど、極地にしか見られない現象や風景に関しても触れている。

 また、南極のオゾン層の破壊に関しては日本の気象台が考案した観測気球が初めて発見したこと、南極での排泄行為は迅速をこととし、排泄物は必ずビニール袋に入れて回収することも知ったが、便秘の人は南極には行けないということらしい。

 本書ははじめから中学生、高校生にも読めるようにとの意図があり、そのために専門的な解説はできるだけ省いたのではないかと思われる。本書を出版後、著者はあちこちから講演依頼を受けたようだ。


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