リスクテイカー/川端裕人著

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リスク

  「リスクテイカー」  川端裕人(1964年生)

   文春文庫  2003年10月文庫化初版

 アメリカにおけるマネーゲームの現状を背景とした、成功物語を著した書で、株式市場、為替市場、相場市場を利用、世界の通貨や市場の動きを予測したり、あるいは市場を金額の大きさで動かしてしまい、市場を混乱させては売買を行い、数千万ドル、数億ドルをいっぺんに稼いでしまうという、悪質ではありながら、きわめて現代的で、架空の話ではない。

 1992年、3年の欧州通貨危機、1994年のメキシコ通貨危機、1995年のドル暴落、1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア通貨危機などには、その発端となる大量の空売り注文、空買い注文(いずれも信用売買)が入り、ために市場関係者の側からは不可解な混乱と映り、他の市場参加者もその事実に狼狽し、慌てて同じ行動をとり、思惑通りのポイントまで上がったり、あるいは下がったりしたところで、いったん買い取ったり、売り払ったりして収拾し、市場が落ち着くと再び同じ行為を繰り返して、いわば全くの不労所得を、しかも、高額で獲得するという、手法と実態とが緻密に描かれ、現代のマネーが機関投資家の手を通じて、強引に動かされる過程が余すところなく語られている。

 もともと、貨幣というものはユダヤ人が考えたもので、初めはそれぞれが金や銀で裏打ちされ、兌換制度から始まったが、それだと金や銀の量を越えて貨幣を作ることはできず、戦後は兌換制度が世界的に廃棄され、それぞれの通貨は、経済力を背景とした範囲で、自由に印刷、世界に出回るようになった。いわば、どこの国の通貨もただの紙っぺらであり、信頼のおけない通過は国際的な機軸通貨とはなれない。

 株式にしろ、相場にしろ、為替にしろ、過去に幾多の学者や専門家が数理的に動きを予測する手法を考案してきたが、突然起こる市場崩壊(日本ではバブル崩壊時の株価急落、アメリカではブラックマンデイと呼ばれる日)を予測できないという宿命的な怖さがついてまわる。

 為替にしたって、それぞれの国のもつ通貨の購買力(Buying Power)や国がもつ経済力を踏まえて評価されるのではなく、単に見せかけの経済力を推測し、ときには単純な思惑だけで大きく動く。日本円が対ドル79円にまで上昇したことがあるが、その折り、日本円にそこまでの実力があったということではなく、あくまで思惑(スペキュレーション)でしかなかった。為替というものは、国によってそれぞれが異なる通貨を流通させている限り、こうしたある意味で理不尽な動きをするものであり、しかも、そこにはアメリカの大金持ち、あるいは大金を握る機関投機家の意図的な戦略に翻弄される可能性が恒常的にある。そのことは固定相場であっても、変動相場であっても、あり得ることだ。世界に通貨が一種類しかなければ、為替によるこうした、明らかに不正売買は不可能になるし、抑止できるのだが。

 アメリカで有数の投資機関といえば、メルリ・リンチ、シティ・バンク、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、フィデリティ、GEキャピタル・カルバース、リーマン・ブラザース、カリフォルニア公務員年金基金などが挙げられ、それぞれがそれぞれの得意分野で活躍している。ゴールドマンサックスなどは東京に拠点を置き、北海道から沖縄まで、売りに出されたゴルフ場、ホテル、ビルなどを値をたたいて買い、高値で売るタイミングを見ている。

 (こうした投資機関が例外なく現在サプ・プライムローンの焦げ付きで、円で兆を越す借金に苦悶している様は、「ざまぁみろ」と言いたくなるが、ゴールドマンサックスだけは売り逃げて唯一の勝ち組になっていると仄聞するが、真実は予断を許さない)。

 はっきりいえることは、こうした投機の放任がいま世界経済を恐慌状態に陥らせていることだ。

 


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