世紀のラブレター/梯久美子著

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「世紀のラブレター」  梯久美子(1961年生・ノンフィクション作家)著
2008年7月20日 新潮社より新書初版 ¥680+税

 

 ラブレターの書き手として本書に網羅されている人物は明治以降の有名人で、天皇家(明治天皇から雅子さんまでの和歌を含め)、作家、歌手、俳優、政治家、軍人、冒険家、経済人など多彩。

 作者曰く、「恋は人を愚かにする。恋文はその愚かさの記録である。とはいえ、受け取った人にとってはそれが美酒に変ずる」と。

 明治の作家はラブレターも書いたが、自殺もしている。しかも、自殺は心中が多く、いさぎよさとは無縁、現代人の目には醜く映る。

 芥川龍之介などは多くのラブレターを出して結婚までした妻がありながら、別の女性と心中を企てたはいいが失敗に終わり、その後一人で睡眠薬自殺をしている。芥川の顔写真からは想像できない醜態。

 目に留まったのは以下:

 山本五十六は新橋芸者の千代子に宛てたラブレターで万葉集の言葉を枕詞に使った和歌を披露し、遺髪を同封したという。戦地に赴くにあたって、すでに死を覚悟していたという想像が成り立つ。

 共産党のドン、宮本顕治と百合子夫妻は夫が服役中に出遭ったため、昭和20年に釈放されるまで、12年間も手紙のやりとりだけに明け暮れ、文通は両者あわせて1400通に及んだ。

 谷崎潤一郎は大坂の綿布問屋の夫人ですでに二児の母だった松子に惚れ、「一生あなた様にお仕え申すことが出来ましたら、たとえそのために身を滅ぼしても、それが私には無上の幸福でございます」というへりくだったラブレターを書いたというが、いかにも「のめりこむ谷崎」という感じ。

 平民宰相といわれた原敬は当時まだ14歳だった貞子と結婚し、大切にしていたが、貞子のほうはわりと放埓で名前とは逆の「不貞の子」をみごもり離婚したが、生まれた子供は原敬が面倒をみたという。この時代に夫以外の男と交わり、子を宿すという女には別の意味で希少価値がある。

 愛新覚羅彗生は米国との戦争を不可避とする結果を招いた満州国(関東軍が政府に積極的に協力、無理やり創った)最初の皇帝の縁続き。「大久保武道という男と恋に落ち、さいごは天城山中で心中」という話が紹介されているが、この書のなかで最も心惹かれた展開。

 また、永六輔の亡くなった妻を偲んでの一句、「看取られる はずを看取って 寒椿」は秀逸。


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