中国が世界をメチャクチャにする/ジェームス・キング著

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「中国が世界をメチャクチャにする」 ジェームズ・キング(イギリス人)著
栗原百代訳  2006年10月 草思社より初版

 

 著者はエジンバラ大学東洋語学科を卒業後、中国の山東大学に留学。1985年からフィナンシャル・タイムズの記者となり、1987年から東京支局駐在、1998年から2005年まで中国北京市局長を務め、中国語に造詣が深い。

 過日、北米で、中国産のペットフードに毒物が混入されていたことで多くのペットが死亡し、ミニカーにまで有毒物質が含まれていたとの報道があり、日本では中国産のウナギや餃子が取りざたされたが、本書はそれ以前に書かれたものである。その事実を踏まえても、中国の現状を再認識し、より詳細に、適切に知る上で役立つ内容に溢れている。

 はっきり言えることは、人間のさもしさ、悪徳は、人間の数が多く、競争が激しくなればなるほどひどいものになるということで、本書を通じ、「人口爆発の恐怖」を味わった。たぶん、人口爆発はインド(11億とも13億ともいわれる)とも相俟(あいま)って、それぞれが職を求め、食を争い、水を渇望するようになるだろう。

 毎年多くの子供たちが死んでいくアフリカの事情は再三にわたって放映され、紹介され、NPO、JICA、ユニセフその他の機関が歯止めをかけるべく努力しているが、地球がケアできる人口規模には限界があるような気がする。日本の食も、素材を外国に頼っているのが現状だが、食と水については、よほど慎重でないと、価格の問題以上に自らの首を締めることになりかねない。

 中国人は国内に居住する人間だけで15億人(一般的には13億といわれるが)、日本は1億人、15倍の差がある。人権の軽重にも「15対1」の差があると考えるのが妥当だろう。

 以上が書評であり、以下は備忘録として記した。

1)2004年2月中旬頃から世界中の道路からマンホールの蓋が消えた。最初に起こったのは台湾だが、次いでモンゴル、キルギスタン、日本、スコットランドなどで、ほんの数日のうちに100個を超えるマンホール蓋が消え、カナダのモントリオール、グロスター、マレーシアのクアラランプールでは歩行者がマンホールにころげ落ちた。

 (日本ではマンホールのほか、ガードレール、交通標識、電線も消えた)

2)ドイツにはかつて「ドルトムント」という有名な製鉄所があり、1万人の従業員がいた。この工場はもとより、内部の素材、半製品など、すべてが鉄くずとなり、トラックで桟橋へ、船で中国の揚子江河口へ運ばれた。要するに、倒産した製鉄所がまるごと中国に買い取られたのだ。数年後、揚子江河口にはドイツにあったのと同じ建造物が建ち、製鉄所が中国製品を生産している。

3)中国の大都会では自転車が車に変わり、ソビエト時代のアパートは解体され、建て直され、大理石のロビーとミラーガラスの外観をもつ高層ビルに変身した。舗道では、海賊版DVDの呼び売りする、うるさい売人の声が増えた。さらには、不釣合いなほど豪華なホテルが立ち並ぶようになった。

4)個人用の自宅電話をもたない中国人が2005年には3億人以上が携帯電話をもち、1億人以上がインターネットにアクセスするようになった。(電話線の普及していない発展途上国では同じ状況)

5)中国人が白人に話す内容の多くは日本人の悪口。(にも拘わらず、日本の大学に留学する中国人が多いのは不法就労したいためだろう。彼らによる犯罪の多発も軽視できない。対日悪感情は中国政府が意図的に国民を誘導、教育した効果ともいうべきもの)。

6)個人企業が地方政府と手を組み、中央政府の指示に従わなかったことで、自由市場が改革され、とび抜けた成長を示した。明らかに無法な開発や建設とともに、経済成長し、雇用の機会が増え、田舎の小作人の出稼ぎ労働が始まり、年間のGDPは増え続けた。

7)中国の復興のスピードもスケールも過去に起こった他の国のそれに比べ群を抜いている。15億人の欲求の強さを世界はまだ感じはじめたばかり。ただ、それと同時に地方自治体、政府側の許認可権をもつ官僚が膨大な賄賂を日常茶飯事のように取るようになり、なかには露見するまえに金を海外に送って、海外逃亡を図るという手合いが増えている。賄賂や癒着は中央政権を担うトップとも無縁ではない。

8)一人っ子政策の時代、超音波検査で性別判定されると、女児が圧倒的に中絶の対象となり、女の価値を逆に高め、嫁に出す娘をもつ親には人身売買と同じ収入源となった。

9)外国の投資家を惹きつけているのは人口のもつ大きな市場の存在よりも、むしろ、将来的な可能性である。中国はいまイギリスを抜いて世界四位の経済大国になりつつあるが、一人あたりの平均年収は1、000ドル前後と少なく、世界の最貧国と大差ない。国内経済はGDPがたとえアメリカ並みになっても人口計算上、中国はアメリカの6分の1以下に過ぎない。中国人の人件費はEUに新たに加盟した東欧諸国に比べても6分の1から4分の1である。

 (同じ格差社会でも、中国人の国内格差は群を抜いている。国内総生産を各国で比較をすること自体に問題があり、個人で比較すべきではないか。尤も、中国通貨の元のExchange Rateが低いだけで、これを高く設定するば、中国の国内総生産も国内総所得も現状よりはあっという間に上位を占めるだろう。ただ、こういう経済発展が直線的に可能だったのは、国内の問題(砂漠化と黄砂粉塵の飛翔、産業廃棄物の川や海への垂れ流しをネグレクトして、一切かかわってこなかったことも見逃すわけにはいかない。つまり、経済発展と並行して生ずる、こうした問題、日本でなら水俣病など、について適切な手当をせず、毎年中国人労働者がかなりの数で死亡している事実を公表せずにいることは、必ずや、うしろめたい部分を残しているはずだ。黄砂の時期に見る北京市内の黄色に塗りこめられた空気のなかでは誰もが肺病になりそうな雰囲気。これを放置できる中国政府や北京市のトップの頭の具合が解らない。隣国の韓国にとっても、海を隔てた日本にとっても迷惑至極)

10)人口問題は一番の強みでもあるが、一番の弱みでもある。自転車を漕ぐ象と同じで、スピードが落ちたら転倒し、地を揺らす。

11)知的所有権を無視、それによって外国の企業が蒙った損失はアメリカ、日本、ヨーロッパの企業全体で年間に600億ドル以上に及んでいる。

12)粗悪商品も跡を絶たない。ヤカンは爆発し、変圧器はショートし、薬は効かず、ブレーキパットは役に立たず、粉ミルクには砂糖や小麦粉を混ぜて幼児を死亡させ、アルコールには有害物質が入っており、ゴルフクラブは振るたびに折れたりヘッドが飛んだりする。

13)中国の国内問題は一社が海賊版を出せば、それを真似て雨後の筍のように数十社が同じ贋作品を市場に流し続け、価格競争が激化し、業界としては多くの売れ残り品に見舞われる。きわめて漫画的で象徴的な現実。それでも、外国の小売商が調達した中国製品は2005年で総計600億ドル。

14)中国には破産法がないから、支払い不能企業の整理ができない。中国人の貯蓄は収入の40%が平均で、貨幣供給はGDPの二倍以上、銀行にとって融資先が必要とする以上に預金を持っている。疑わしい融資を回収しようと目を光らせることもない。地下銀行は違法なはずだが、地方政府が経営している。

15)イタリアには小規模ながら職人の工房があり、まとまって世界最大のゴールド・ジェエリーの業界を担っていた。ところが、中国とトルコ相手の競争により絶滅の危機に瀕している。イタリアの純金電導は年間600トンを超えていたが、この4、5年は350トンに落ちている。中国人が展示場にやって来て、見本を買って帰国し、イタリアの10分の1の価格で模造した。イタリアのジェエリー業界は崩壊に向かっている。問題は隣のスイス、スペインをはじめ、ヨーロッパ各国がそれを理解せず、対策を考えていないこと。

16)イタリアのプラートはフィレンツェから遠くない都市だが、人口18万人のうち2万人が中国人で、ほとんどが密入国者、繊維で知られたプラートは職を中国人に奪われた。トスカーナの皮革製品も、エンポリの衣料品も、中国人にとられ、ボローニャもレッジオも中国人企業家が増え、イタリア企業の倒産が相次いでいる。(こういうことをやっていると、中国はいずれ憎悪の対象となるだろう)。

17)IBMも欧州で1万3千人のレイオフを発表。

18)人民元の通貨価値を格安に固定して、それを競争力の柱とし、労働者は福祉厚生を与えられず、労働基準そのものが先進国からみたらすべて違法。

 排ガス規制は手抜き、環境保護のための企業負担はわずか、知的所有権を侵害されても法廷そのものが腐敗しているから起訴できない。そのうえ、パテントは盗む一方だから、みずから研究開発費の負担もない。外国企業が中国国内での工場や商店を設置する場合の条件は、技術の移管、研究開発センターの設置。モトローラも、マイクロソフトも、シーメンスも、それに従った。(日本の新幹線も)。中国が宇宙計画で有人飛行に成功したのも、アメリカが高い資金を払って培った技術を惜しげもなく、単に後方に控える膨大な人口市場を過大評価をするあまり、いとも簡単に開陳したに過ぎない。中国には自前の技術はないに等しく、すべて外国の技術を盗むことによってまかなわれている。

19)アメリカのGEは火力発電所建設のために「9F」ガスタービンの製造の詳細を一部だけ5億ドルで譲渡した。

20)環境への配慮がない。無策と、人口過多と、無頓着な産業化と、自然の恵みを正しく評価できない計画経済が重なり、かつてないほどの環境危機を招いている。北部にあった砂漠は森林の伐採で周辺の町や都市へと次第に近づいている。

 10年前までは存在した水路も涸れてしまった。食物のなかには違法で、警戒レベルの環境ホルモンや農薬に汚染されているケースが多発する。SARSや鳥インフルエンザのような新しい奇病が定期的に出現する。

 (今後、産業廃棄物の垂れ流しのつけがどのような形で民を襲うことになるか、だれにも予測しがたい。いや、近隣の国への波及も否定できない)。

21)インドネシア、パプアニューギニアの森林、太平洋の魚介類、オーストラリアやブラジルの鉄鉱石、中南米や北米で栽培された大豆、メコン川に流れこむ淡水、中東やアフリカの原油、モンゴルの地下資源や山羊のもたらすカシミヤなどなど、どれもが急成長する中国の飽くなき欲求の対象となっている。中国自体がもつ自然環境が与えてくれる貧弱さと人的資本の並外れた数とがミスマッチを生じ、不安定を生み、世界に悪影響を及ぼしている。

22)黄河は世界のどの河よりも多くの人間の命を奪ってきた。「文明を生んだ中国の誇り」であるのと同時に「多くの人の命を奪った中国の悲しみ」でもある。紀元前602年以降、堤の決壊は1、500回を超え、流れは26回変わった。1887年には河南省の堤防が崩れ、11の都市が水に浸かったのみならず、200万近い人を死に追いやった。1943年には300万人の農民が飢え死にした。河には沈泥がたまりにたまって、ミシシッピーの支流、ミズーリーの6倍の量だという。

 1988年以降は、逆に水が涸れはじめ、海に達することのない年があった。1997年には山東省で226日にわたって干上がってしまった。何千年にもわたって水の恐怖におびえた経験が政体をして「水が乏しい」という現実を直視させ、危機感をもつ神経を麻痺、欠落させ、リスクを理屈どおりに理解できずにさせている。

23)1980年からパルプ、製紙、化学、染色、製革工場など何万もの企業が河岸に建ち並び、有毒廃液を河に流しはじめた。1990年には飲料に適さないばかりか、廃液率が全国平均の2倍に達した。問題解決を命じられた地方当局は貯水池やタンクに貯めた汚染水を一斉に河に投げ捨て、ために1200トンの魚が死に、数千人が赤痢、下痢、嘔吐に苦しんだ。

 1997年に「2000年までに汚染物質を除去するよう」中央から指示されたにも拘わらず、再開された工場群は垂れ流しをやめず、むしろ毒性が強い化学物質を流したため、都市部の掘割で死亡する人の記事が頻繁に新聞紙上に載り、1999年に河は20年ぶりに干上がって、作物は枯れ、何千トンもの魚が再び死んだ。それでも、環境保護局長は「浄化運動は成功をおさめ、河の水は飲料水として可能になった」と宣言した。

 共産主義的なトップダウンの階級制度では上から管理される一方で、下からのチェック、報告は機能しない。地方役人はトップからの命令に従い、基準を満たそうと躍起になる。地元の工業生産力を高め、雇用の機会を増やし、税収を上げることが第一であり、環境保護への関心は二の次、三の次。

 飲料水の価格が上昇したが、そうすると、今度は水泥棒が助長されるという悪循環が起こる。

 世界銀行の調査によると、世界の汚染都市ワースト20のうち、16が中国国内の都市。国土の30%以上に酸性雨が降り、黄砂は北京で10センチも積もる。ノルウェーの大気研究所エコロジー経済学センターの計算では、中国は毎年水銀600トンを大気中に排出している。ニューイングランドの上空でもそのサンプルが採取され、アメリカの湖沼の3分の1と、河川の4分の1近くがその水銀に汚染されているという。(隣国の韓国や日本、台湾はもっと酷いのではないかと憶測されるが、水銀汚染についての報道に接したことはない)

24)中国はさきに挙げた国だけでなくロシアの北方林にも目をつけたが、ロシアは手つかずの林の伐採を許可しなかった。ところが、中国の伐採シンジケートの供給役である犯罪組織はロシア領内に入りこんで広域に放火し、それを理由に伐採の許可をとった。2003年に2、200ヘクタールの土地にあったトウヒ、モミ、アカマツ、オークの林が破壊された。アメリカの衛星写真に157件の森林火災がツンドラ地帯で起こっているのが写っている。その煙は5、000キロ離れた日本の京都まで達した。ツンドラで育った森林は伐採されたら再生は不可能といわれている。

 世界で輸送される熱帯木材の50%は中国へ。そのうち44%は違法に伐採されたものといわれる。

 (日本だって、レストランで割り箸を使い、トイレで紙を使うのだから、他国の森林に依存している点では同じレベルだが、中国人富裕層が日本に森林のある土地を買っていることには警戒が必要)。

25)ブラジルは中国の大豆の需要に応ずるため、25、900ヘクタールの熱帯雨林を伐採した。環境破壊者は第一位がアメリカ、第二位が中国だが、「環境保全責任」などという曖昧な目標を達成するまで何年かかるか判らない。(そのあいだに、南太平洋の島国は水没しているだろう)。

26)中国人による偽造はパスポート、運転免許、在住許可証、就労許可書、大学の学位、IDカード、なんでも可能。2002年までの5年間に、北京当局により偽装警官が1万人以上逮捕されたという。車のナンバープレートも役人用、外国人用の偽造に人気がある。(中国にはまともな神経を持つ人間が不在というより、まともな神経をもっていたら生きていけない)

27)1990年代半ばに献血運動が始まり、5ドルの謝礼が出ると聞くや、献血者が列をつくり、献血に応じたが、なかにHIV感染者がいて、100万人の農民が死んだ。(事前に血液検査をしないということらしい)。

28)中国企業の株式市場への上場には資本の3分の1までしか公開しなくてよいため、株主が団結してかかっても経営に影響をおよぼすことはできない。情報開示は手ぬるく、最小限の財務情報だけ公開すればよく、しばしば偽情報。ある年には40社が粉飾決算を行なった。赤字がいくら累積しても倒産の危機意識をもつ必要はなく、銀行は貸すことを躊躇しない。先進国なら、健康回復のためには総計で5、000万ドルは必要といわれる。この国には法的な機関はまともには機能していない。それでも、外貨の準備高は7、000万ドルはある。

29)アメリカ議会と有権者はやがて中国をはっきりと敵視するようになるだろう。現実に、戦略および軍事に関して中国とアメリカの競争が始まっているとの観測に疑いはない。

 「中国の上昇が世界にどう影響するかではなく、上昇を世界がどこまで許すかである」と作者はいうが、ひょっとすると、中国は自滅するかも知れない。あるいは、汚染が進んで、全く新しいウィルスが出現し、中国の人口を半分以下にする可能性もある。そうなれば、むろん、影響はアジア各国にも、欧米にもおよぶだろう)。

 作者は中国人の「融通無碍」と「実利主義」を過大に評価しているように思う。また、15億の人間を相手に治世をしたことのない外国人為政者には中国という国は理解の埒外にあるのではないかとも思う。

 あらゆる問題の根は市場開放に踏み切る前に、資本主義国の市場ルールを理解していなかったことと、ジャーナリズムの政治的な制約にある。さらに、地方自治体が企業との癒着を深め賄賂に酔い痴れているのと同じ状態が中央政府のなかにもある。

 「中国が世界をムチャクチャにする」との作者の予測はよく理解できた。


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