人間的なアルファベット/丸谷才一著

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「人間的なアルファベット」 丸谷才一(1925年生)著
帯広告:エロスとユーモア溢れる丸谷版AtoZ
2010年3月31日 講談社単行本初版¥1600+税

 

 「ActressからZipperまで、色っぽくって面白い!知的雑学満載の、軽妙洒脱な読み物辞書」とあり、なぜAがActressで、ZがZipperなのかは判らなかったが、他との比較を絶する知識、肩肘張らない華麗な筆致が内容的に前代未聞と思わせる書籍を創造したのだと思える。

 本書には古今東西の名作、芸術、詩、異聞、人物など採り上げ、軽妙なユーモアを混ぜて、おもしろおかしくコメントしつつも、読者を飽きさせない芯の強さが一貫している。人柄というべきか、文章力というべきか、内容が卑猥でエロっぽいことに触れても、いやらしい印象が全くない。

 以下は、脳裏に残った部分をあえて書き出してみる:

*豊満な乳房は下層階級という説が欧州にある。ルノワールのモデルたちはみな例外なく農家の出身で、乳が大きい。また、上流階級の女性は出産しても、自らは幼児に授乳をせず、乳母に任せていた。

*教会は乳房を安らぎのために夫に、栄養のために子供たちに与えよと説いた。

*日本人と欧米人との口説き文句の違いは、そこに体臭に関する表現が日本になく、欧米にあること。

(ナポレオンが「時間ができたのでこれから帰宅するが、シャワーに入らずに待っていてくれ」と伝令を使ってジョセヒィーヌに伝えさせた話は有名。男女の営みに体臭のもつ意味が強調されている)。

*田山花袋が若い愛人の遺した蒲団に顔を埋めて、その余香を慕う男を描いた「蒲団」という作品などは西洋文学だという批評を受けた。

(私個人はこの意見に真っ向から反論したい。私は若い頃、愛する女が帰宅していった後、女の移り香の残っている枕や敷布に顔を埋めて余韻を追ったものだし、相手の女にも私が彼女の家を出た後、ベッドに残った私の体臭を鼻をつけて慕ったという告白を再三聞いている。日本人にだって、欧米の白人ほどではなくとも、体臭はあるし、いわんや汗をかいた後のシーツや枕などに体臭が残ることは充分に考えられる。好きな異性の体臭に包まれていたいという欲求は日本人にだってあるだろう)。

(また、欧米では特に女の子が十歳にでもなれば、早くも体臭がにじんでくるため、親はデオドラントを娘の体に塗りこむのが習慣と化している)。

*人間が年中のべつまくなしにセックスをするのは先祖がアフリカの暑い土地の出身だからで、熱暑の地の動物は概して一年中発情している。(ちょっと信じがたい話)。

 本書が最も多く扱っているのは男と女のこと、85歳という年齢をまったく感じさせない著者独特の洒脱さはさすがと思わせ、読んでいて飽きがこない。


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