仁義なき英国タブロイド伝説/山本浩著

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「仁義なき英国タブロイド伝説」 山本浩(1963年生/NHKロンドン特派員の経験あり)著
2004年12月20日 新潮社より発刊 新書版 ¥680+税

 

 かつて、ダイアナ妃がパパラッチに追いかけまわされ、あらぬところを撮影されたり、写真を公表されたりしたことで、タブロイド紙は世界的に名を馳せる存在となったが、私もタブロイドにまつわる真実が知りたいとの思いに駆られ、本書を手にした。

 「  」内は本書著者の言葉であり、以外は私の個人的な意見。

 「タブロイドは一部80ページという量がありながら、200~300万部を売る同種の日刊紙が10社以上ある。内容は大特ダネ、誤報、ゴシップ、偏見、嫌味、他紙の悪口、女性のヌード写真、選挙時は支持政党への応援、戦時中は故郷の写真を戦地の兵士に送るなどで、いくら読んでも賢くはならないが、読みだすと、笑いが止まらなくなって、ついにはハマってしまう」

(紳士の国で、このような面白いというだけの低級なメディアが人口に膾炙しているのは、大英帝国の凋落を表現しているような気がするけれども、好意や注目の対象がレベルダウンしているのは日本も同様。タブロイド紙が世に出はじめたのが1900年前後で、ちょうど世界に散在する英国の植民地が反英運動、独立運動を燎原の火のように広げつつあった時代と符号する。タブロイド現象は植民地喪失がイギリス社会を襲った病であり、いわば『やぶれかぶれ症候群』だったのではないかというのが私の憶測)。

 「フーリガンの存在も、サービス精神の欠けた交通機関も、まずいものを名物にするレストランも、タブロイド紙と同様、日本では考えられない」。

(タブロイド紙の記者がバッキンガム宮殿の「召使い募集」に身分を隠して応募し、まんまと雇用され、内部の撮影はもとより、召使いとして知りえたことを、後日すべてタブロイド紙に暴露したという話は、警察による事前のチェックが杜撰だったからで、アホみたいな話)。

 イギリスは「ユーモアの国」というが、意地が悪く、陰険なところも根深い。イギリス人がトイレに尻を乗せて用を足している最中に突然イギリス国歌が流れると、イギリス人は必ず即座に立ち上がってしまうというのは、アメリカ人が考えた笑える話だ。

 イギリス人に人種差別意識が強いのは、当然すぎるほど当然。イギリスでなくとも、七つの海を支配し、世界にドミニオンを築いたら、鼻高々という態度をとるだろう。そのうえ、イギリスはニュートンやダーウィンを生み、蒸気機関車を発明し産業革命の先頭を歩いた国であり、当時のかれらの自負心は現在のアメリカのレベルをはるかに超えたもので、同じヨーロッパの人間すら下に見ていたはずだ。英語による欧州各国人に対する侮辱語、揶揄語は幾らでもある。とくに、隣国のアイルランドに対しては非情かつ残忍だった。

 日本のフライデーなどが写真をメインにした、視覚に訴える雑誌として世に出るより半世紀以上前にイギリスのタブロイド紙はそれをやっていたというのは初の知見だった。また、パパラッチというのがイタリア語で「ヤブ蚊」との意味であることも本書に教えてもらったが、確かに言い得ていると納得。

 確かなことは、タブロイド紙が事実を報道するためでもなく、報道すべきことを報道する道具でもなく、金儲けに終始して、どうでもいい瑣末なことを誇大に書くものだということを知ったが、それだったら、本書の前に書評した「文明の自殺」の中国人と大差のない精神状態にあることが推測される。こんな内容のものを楽しむ姿勢というものはユーモアを解する解さないのレベルで論ずべき対象ですらない。尤も、日本人も、連日の報道にあるように、決して綺麗ごとのなかで生きてるわけではないが。

 本書を読んでいて参考になったのは、タブロイドのことではなく、植民地の独立、南アでの(ダイヤをめぐっての)ボーア戦争、第一次大戦、第二次大戦、フォークランド諸島におけるアルゼンチンとの戦争、ユーロとのかかわり、湾岸戦争、イラク戦争など、イギリスが近代にかかわった歴史と、それらをイギリス人がどう捉えたかをあらためて確認できたことだった。


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