停電の夜に/ジュンパ・ラヒリ著

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「停電の夜に」 ジュンパ・ラヒリ著  小川高義訳
新潮クレストブック単行本  文庫化初版2003年3月

 

 作者はインド系アメリカ人、両親はベンガル生まれ、ロンドンに移住後、ラヒリが生まれ、幼児のときアメリカに再移住、以後、ラヒリはアメリカで教育を受け、成人し、現在はニューヨークに居住する。

 インドの血をもつアメリカ人の作風とはどのようなものかに興味を持ち、そのことに惹かれた。

 両親がベンガル出身という事情から、インドには親類縁者が多く、ラヒリ自身、しばしばインドを訪れ、滞在している以上、インドの風物、習慣とあわせ浮浪者の群れをも目の当たりにしたはずだ。

 作品はどの短編にもアメリカ人としてのアイデンティティをもつ人間の特徴がにじみ出ることはなく、いわゆるアメリカ的なものからはどの短編も遠い。かといって、インド人丸出しといった印象も希薄。

 この作家の作品がへミングウェイ賞に輝き、各評論家から評価された理由の一因としては、間違いなく、作品のもつ異質性、異風なものへの白人種的な好奇心と価値感の多様性への覚醒が根底にあったと想像する。というよりむしろ、かれらは作者の目のつけどろころにあっけにとられたはずだ。白人種は得てして、アメリカに似たもの(たとえばアメリカナイズされた日本の一部)などにはわずかにも目をくれず、常に異質なもの、英語で言えば[Something Different]に目を剥く。

 ピュリッツァー賞もとっているが、最後まで争ったのは華僑系のアメリカ人だったという話にも納得がいく。

 この作者が今後大成するか否かは、今後どのようにインド的なものから隔たり、しかも視座をアメリカ的な合理主義や物差しからの影響を払拭して、独自の文学が書けるかどうかにかかっているような気がする。そうした期待を一身にになうラヒリが重責に苦渋することもあるだろうが、そこを抜けることが作品の一層の昇華を約束している。楽しみな逸材ではある。


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One Response to “停電の夜に/ジュンパ・ラヒリ著”

  1. bookbath より:

    という文脈でしたら、カズオ・イシグロやマイケル・オンダーチェをご一読されていはいかがでしょうか。特にオンダーチェの「アニスの亡霊」はお薦めです。もちろん、異境者としての目はスパイスで、作家の質が読みどころです。

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