偽窓/レーナ・クルーン著

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偽窓

「偽窓」 レーナ・クルーン(Leena Krohn/フィンランド人/哲学者)著
帯広告:現代フィンランド文学の至宝が贈る哲学的小説
訳者:末延弘子
2010年1月15日 新評論より単行本初版 ¥1800+税

主人公の家屋にはバスルームよりずっと大きなアイソレーションタンク(Isolation Tank)という水槽があり、中に塩を含んだ水が満たされ、作者はそのなかに浮かんで思考に集中したり、身の上相談にやって来るクライアントと会って話をしたりするという、一般人の日常とは無縁の生活をしている。作者はこのタンクを「感覚遮断タンク」とも呼称する。

登場するクライアントはほとんど現実感のない人間だが、そこに哲学者としての作為があるように感じられる。

タイトルの「偽窓」とは、タンクを置いてある屋内から窓のように見える「つくりもの」で、窓としての機能はもっていない。視覚が捉えるのは虚像ではあっても実像ではないというところにミソがあり、この作者の「実像と虚像に対する執着心」が窺える。

水で満たされたタンクの効用は重力からの解放が得られることで、脳波が変動し、血流が活性化し、あらゆる依存心から自由になれるということらしいが、塩水に浮遊する状態を恒常的に続けていたら、筋肉は弱り、きわめて不健康な身体に変容すると想像されるが、そのことについての深刻な表現はない。

作者の研究対象は「残像の現象学と存在論」で、本書のなかで、たとえば、「暗所恐怖症は原初的な恐怖であり、人間は怖がっているときに感覚が研ぎ澄まされる。夜は墓場ではなく、子宮である」とか、「なぜ二つの性が存在し、セックスのような奇妙な現象があるのか」、「宇宙は無言のまま膨張を続ける死の世界である」など、常識的な思考を捻って表現する。

フィンランドの哲学者が何をどのように考えているのかに興味を持って読んだ本だが、同じフィンランド人にもそれぞれに個性があり、本書をもってフィンランド人を代表する哲学的小説と断言するわけにはいかないだろう。


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