償い/矢口敦子著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

償い

「償い」  矢口敦子(1953年生/北海道生まれ)著
2001年 幻冬舎より単行本
2002年 同社より文庫本初版

 

 ミステリーでありながら、人間の心を中軸に据えつつ、人生の意味を問うといった印象があって、濃密な陰影を感じさせる。こういうミステリーに出会ったのは初体験で、面白かった。

 解説者が本書を賞賛するのは当たり前ではあるが、「矢口の世界には真物(ほんもの)のみが放ち得る純粋な輝きがある」という言葉にも納得。

 本書の流れや展開に触れることはやめておくが、登場人物が時に発言する言葉のなかに、はっと思わせるものがあり、それらの中から一部を紹介する。

 「大切なものか否かは、心の秤(はかり)で測る」

 「どんな人間だって、価値があるといえばあるし、ないえといえばない」

 「ヒトは知性を発達させたんじゃなくて暴走させた。ヒトはボノボを見習って、森から出なかった方が良かった」

 登場人物が多く、それらが全編に出入りするため、時に読み手に混乱をもたらす可能性はある。

 推敲が若干不足しているのではないかと思ったのは、本書の最初のほうで、ホームレスの主人公がゴミ捨て場に放置された角型のウィスキーのビンを見つけ、琥珀色の液体が半分近くも残っていることを確認するなり、いきなり口をつけて呑んでしまったら、液体は尿だったという場面。いくらホームレスでアルコールに飢えていても、口をつける前に蓋を開ければ、飢えていればいるほど、匂いには敏感になっているはずで、いきなり呑んでしまうという展開には無理があるように感じた。


前後の記事

«  (前の記事)

(次の記事)  »

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ