冬の犬/アリステア・マクラウド著

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冬の犬

「冬の犬」 アリステア・マクラウド(カナダ人)著
中野恵津子訳  新潮クレストブック刊
2004年1月単行本初出

 

 本書は2006年7月11日に本ブログで書評した「灰色の輝ける贈り物」を世に送り出した同じ作者の作品である。

 作者が西欧やアメリカで一気にブレークしている所以(ゆえん)は、いわゆる西欧的な、アメリカ的な文学にない作者独特の香りがきわめて個性的に、かつ新鮮に映っているからではないかと想像する。

 まず、まどろっこしい文章に苛々しながら、行きつ戻りつしながらも、作者の言い分に納得させられる。

 どの短編にもケルト人のゲール語がベースとなって、それへの作者のノスタルジアが全編を貫き、移民を余儀なくされた人々の心の拠り所が理解できる。作者らの先祖は元々スコットランドに居住していた人々、イングランドとの戦いに負け、当時のイギリスの採った「クリアランス政策」(余計者を一掃する政策)の延長線上で、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどへの移民を余儀なくされた経緯が史実にある。

 舞台は常にカナダの東端、ケート・プレントン島で漁業、林業、牧畜業などを主とする移民末裔の生活と家庭のあり方。北海道より平均気温が低い、雪と氷に閉ざされた酷寒の大地に足を置き、世代を超えて生きてきた逞しさに並行するように、全編に流れる哀切と愛惜きわまりないそれぞれの人生。

 同じ地球の一隅にこのような人々が存在することへの不思議、その不思議に出遭った幸運、感動。なによりも、作者の文体からは「おれは文がうまい」という自意識が匂ってこないところが反感を買わず、人柄そのものがそのまま虚飾なく伝わって、一つの文学世界を形成している。

 本書には8編の短編が収められているが、1977年から1999年まで22年間に書かれたもので、いかに寡作の作者かが判る。いずれにも作者の個性がにじみ出ている。


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