切支丹の里/遠藤周作著

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切支丹の里

「切支丹の里」 遠藤周作著
中公文庫  1974年初刊

 作者はカトリック教徒であり、切支丹については、一般の作家以上の関心と執心を抱いていたと想われる。
 江戸幕府は植民地化を恐れて切支丹を禁教とした。現実、イギリス、スペイン、ポルトガル、オランダ、フランスは宣教師による布教活動のあとで軍隊を送り込み、植民地化を促進、世界各地で掠奪と残虐をつくしたという歴史をもつ。

 禁教から弾圧がはじまり、以後、悲壮な死があり、「ころび」があり、隠れキリシタンの歴史が生まれ、このような哀切な著作に結果した。

 当時、この国に切支丹信徒が急激に増えた事情がいまひとつ不可解だが、想像するに、政治が苛酷だった、仏教のリーダーたる僧侶が腐敗し暴力団的な存在と化していた、自然災害による飢饉が続いた、土壌が悪く期待された石高が得られなかった、戦国時代が継続したため民があまりに貧しかった、といった点にあるだろうか。

 殉教が甘味、快感、陶酔、法悦をともなうことはよくあることで、酷い現世からの逃避が念頭にあるあまり、催眠状態におちいり、場合によってはグループ催眠にも陶酔にもおちいる。

 本書は「ころんだ」元キリシタンの弱さ、悲哀をベースに小説としてまとめている。

 本書の主題は棄教した人間心理、隠れキリシタンとなって時代を生きてきた人間心理に、作者の人間としての弱さを投影したという、文学者としての思い入れが心の襞(ひだ)に触れてくるものだが、次に書評する「南蛮巡礼」をあわせて読むと一層おもしろい。


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