危険な斜面/松本清張著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

危険な斜面

「危険な斜面」  松本清張(1909-1992)著
2007年11月 文庫化初版

 

 作者が最も活躍したのは戦後しばらくの時期、「社会派ミステリー作家」として名を馳せ、当時多くのフアンを獲得したが、時代が時代だけに、それなりの面目は保ちながらも、社会背景は現代とはだいぶ落差があり、若年層の読者にはピンとこない部分があるように思われる。

 窃盗にしても、初任給が5千円から7千円ほどの時代、30万円、40万円という金額は現在なら10倍ほどにも匹敵するが、時代のずれは直しようがなく、社会のあり方にも同じようなずれが感じられるのは仕方のないところ。

 本書には6編の短編が収められているが、かつてこの作家にのめり込んだときの気持ちには戻れなかった。また、本書の短編にはミステリーとして雑な面も散見され、やや白けてしまう部分もあった。

 例えば、完全犯罪を狙う主人公が女を山林につれこみ、殺害後、穴を掘って埋めてしまうのだが、遺体に銀行預金通帳があって、簡単に身元が判明されるなど、ミステリー作家としては信じられないほど、細かい配慮のないことには、やっつけ仕事のような感じがある。遺体に銀行預金通帳をつけたまま埋めるなどというアホな犯罪者はいない。別の一編には療養所に2年も過ごした人物が登場するが、療養所に入った理由が説明されていず、苛々を残した。

 長年、この作家につきあっていたためか、本書からは欠点ばかりが目について、往年のように楽しむことができなかったことは残念だった。

 解説者が「安易なストーリー展開を許さない巨匠の豪腕にただただ感服」といった言葉があるが、褒めすぎの感が否めず、以前、宮部みゆきが選んだ松本清張作品に比べると、内容はだいぶお粗末というしかない。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ