四億年の目撃者・シーラカンスを追って/サマンサ・ワインバーグ著

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「四億年の目撃者・シーラカンスを追って」
サマンサ・ワインバーグ(イギリス人)著
原題:A Fish Caught In Time / The Search For The Coelacanth
訳者:戸根由紀恵
2001年7月10日 文芸春秋社 文庫化初版 ¥705+税

 

 1938年(第二次世界大戦直前)、南アフリカの南端、イーストロンドン沖の水深70メートルの海中から体長1・5メートル、体重57キロの、魚類図鑑にも参考書にも出ていない奇妙な構造をもつ魚が捕獲された。調査の結果、頭部の甲殻、ウロコの並び方、ヒレの数、形状などから、化石として知られていたシーラカンス(7千年前に絶滅したとされる)と酷似していることが判明。

 化石はそれまでイギリス、ドイツ、アメリカ、中国、ブラジル、マダカスカル、グリーンランドなどで出土していたため、それらとの照合、比較の結果、判明した。

 捕獲された土地に居合わせたイギリスの科学博士、スミスは既に剥製にされた魚を撮影し、イギリスのネイチャー誌に発表、世界中に配信され、衝撃を与えた。スミスは以後、大学に魚類学部を新設してもらい、その道一筋に研究を絞り、南ア東海岸を動かずに二匹目のシーラカンスを追ったが、世界大戦の勃発という事情もあり、14年間が無為に過ぎた。

 二匹目が入手されたとの報は、1952年、フランス領のマダカスカル諸島の一島、コモロからもたらされたものの、交通事情の悪い状況下、現物を目にした時点で、シーラカンスは腐敗、劣化しはじめていた。これを南アのイーストロンドン博物館で展示したところ2万人が見学に訪れた。

 フランス政府はフランス領に外国人の学者が入ることを禁じ、以後、該当する海域で捕獲されたシーラカンスに関する研究、発表はフランス人学者の手に任されることになる。その間、「沈黙の世界」などで有名なフランス人冒険作家、ジャック・イブ・クストーにカリプソ号を使った潜水を依頼してもいる。二度潜水したが、二度とも対象魚を撮影することに成功はしなかった。

 本書は上記したように、シーラカンスが初めて捕獲された時点から、生きている姿が撮影されたり、インドネシアのセレワシ島でもDNAに若干の相違が見られるシーラカンスが発見されたり、中国人が漢方薬に使おうとしたり、日本の東海大学水族館が高値で買おうとしたり、といった歴史的エピソードを時系列を追って細かく書かれ、読み応えのする内容になっている。

 ただ、深い海から捕獲される魚にも拘わらず、本書では気圧の変化が生体に及ぼす影響について一切触れていないことが不思議で、納得のいかない点ではあった。なぜなら、気圧の変化が減圧症やエア・エンボリズムという潜水病をもたらすのはダイバーだけでなく、海中を棲家とする海中生物にも、ほとんど同様に起こるからだ。もし、シーラカンスを生きたまま捕獲したいのなら、気圧の変化に対応しつつ深い海から徐々に浮上させなければいけなくなる。また、もし可能なら、深海魚用のチャンバー(減圧室)をつくらねばなるまい。私の知己は海水魚センターを経営しているが、50メートル以上の水深から捕獲した魚は必ず、自家製の減圧設備に入れ、売り物である魚の体を守っているため、水族館などの買い手から信頼を得ている。

 最近、日本の水中写真家がインドネシアの海底でシーラカンスの撮影に成功したとの報道があり、テレビでその姿が放映された。カメラはおそらくロボットに装着したものであろう。


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