孤独について/中島義道著

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孤独について

「孤独について」
中島義道(1946年生/哲学博士・専門は時間論、自我論、コミュニケーション論)著
文春文庫  2008年11月10日文庫化初版 ¥524+税
副題・生きることが困難な人々へ
チラシ広告:壮絶な人生の戦いを総括する。その悲惨な少年時代から大学でのいじめ、そして孤独との和解まで

 単純な読み方をすると、たとえば、この人の「少年時代には7歳までに5回も転居させられ、これで情緒不安定になるのは当たり前だ」などという言葉には、「おれの知己の子供は同じ7歳までに5回の転居をしたばかりではなく、その後も親の仕事の関係や親の環境の変化を好む性癖のおかげで、転居をくりかえし、その数は子供にとってだけでも20回を超える。それでも、当人は情緒不安定にもならず、この作者と同じように、東大の法学部に合格しているし、いまではIT関連の業界で起業し、どん底の不景気のなかでなんとかやっている」というような反論、反発がしたくなる。

 また、

 飛んできたボールをどう処理していいか、どう投げ返していいか判らなかった、体育の時間はひとりで校庭の隅で不快とともに見物していた、男子トイレで男子がチンチンを並べて小便をする姿がグロテスクに思え、小便ができず、ひたすら我慢したが、ときに大々的に漏らしてしまって周囲の不興を買った。
 
 そして、わたしはひたすら死への恐怖に怯えた。大学では助手の仕事をしつつ、教授のいじめを不断に受けた。

といったような告白には、精神の脆弱性、異質性、コンプレックスの塊といった、男らしさを喪失した人間性を感ずるだけで、「生きることが困難な人々へ」を想定して書いたとはいい条、作者と同類の人はそれほど多く存在するわけがなく、本来あるべき「副題」とはなっていない。

 本書のすばらしさ、価値は、孤独な人への助言や、癒しではなく、あくまで本書が少年時代から今日に至るまでの作者自身の虚偽のない、正直な体験の告白にあり、そこに類書のない、壮絶な個人史が述べられていることにあり、稀有ともいえる悲惨な経験を舐め尽くした人生が現実に存在したことへの驚愕と、それらを掻いくぐって今日を築いた一個人の人生への賞賛と憧憬とが織りなす感動を読者にもたらす点にこそある。

 文中の「芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫らの単純さからは、私のような人間の内面は永遠に理解の埒外にあるだろう」との言葉には、百パーセント同感。

 


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