官僚とメディア/魚住昭著

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「官僚とメディア」 魚住昭(1951年生/元共同通信社記者、現在フリージャーナリスト)著
裏表紙広告:官僚の暴走と、すり寄るメディアの深い闇
2007年4月10日 角川新書より初版 ¥686+税

 

 「官僚や政治がメディアに圧力をかけるという実態も、メディアがみずから国や官にすり寄る実態も、この国にはある」というのが本書の主旨だが、メディア自体が(「すべての」とは言わないが)レベル低下を惹き起こし、民放TVなどはまるでパパラッチ並みの、大衆迎合的な報道をすることのほうが問題の質としてはシリアスだと思うから、本書が挙げつらう問題はむしろ軽く感ずる。

 同じような実態はアメリカにも欧州にもあるだろうし、少なくとも中国、ロシア、その他の発展途上諸国よりはましだろうと思えるからでもある。

 ただ、一つ、本書のなかで私の関心を捉えて放さなかったのは2005年に起こった建築物構造設計計算書の改竄問題である。「姉歯」という風変わりな姓とともに今なお忘れがたい事件に関する言及にはぎょっとするほどの「監視体制の杜撰」と「いい加減さ」を感じさせられた。

 それはメディアと官僚との癒着とか暴走とかいうことではなく、問題の本質を、私を含め、当時、ほとんどの国民が理解していなかったという事実を5年後のいま、初めて知ったことだ。(むろん、本書を読んでいれば、2年後に知ることはできた)。

 「全国に一級建築士は30万人いるが、建築物の安全性を支える構造設計者は1万人前後であり、うち真に専門家といえるのは僅か3千人に過ぎない」という著者の言葉に「えぇ!」と思いつつ首をかしげた。なぜなら、それならば建築物の構造をプロとして理解できるのは日本全国に3千人ほどしか存在しないのに、あの時期、すさまじい数でマンションやビジネスホテルが建てられていた実態とどう符号するのかという疑問をもったからだ。

 著者は専門家の数が少ない理由を、「日本の建築界で『構造』設計者は『意匠』設計者の下請け的存在とみなされ、低い報酬で過酷な作業を強いられるから」という。姉歯もそういう低い報酬しか受けられなかった設計士の一人だと。

 さらに、「1981年に建築基準法が改正され、新たに保有水平耐久力計算が導入され、すべての柱、梁の強度計算と、すべての壁の評価をしなければならなくなり、計算量が膨大になったため、コンピューターなくしては計算は困難になり、計算過程も複雑で、人間の手で検証することが難しくなった。プログラム自体がブラックボックス化し、コンピューターからアウトプットされた計算の内容も複雑な数字と記号が延々と並び、専門家でなければ解読できない」と。

 「姉歯の構造計算改竄の罪が暴けず、建設業社、販売業者らの三すくみによる犯罪ではないかと勘違いされたのは、この計算がむやみやたらに難しく、周囲の建設関係者すらが理解していなかったことによる」

 具体的に説明する。 

 「初め、姉歯はベースとなる計算書にミスをしたまま、監督署に提示したが、いずれ間違いが指摘されて戻されると考え、正しい計算書を作成して待っていたところ、間違えている計算書が通ってしまった。通ってしまった以上、いまさらあれは間違いだったとは言えず、放擲。監督署を軽く扱う癖のようなことになり、以後もほとんど故意にベースを変えた計算書を出し続け、それが毎度監督署の目を通った」という。

 しかも、「姉歯の偽装物件は100件にのぼることが明らかになり、取り壊された建築物が相次いだが、実際には補強工事をする程度で問題のなかった物件も少なくなかった」らしい。

 つまり、あの偽造計算書を作成したのは姉歯であり、そういう計算書であったことは周囲の誰にも判らなかったということで、そんなことがあり得るのかと、しばらくは茫然たる気分に陥った。

 著者は最後に、「本当の罪は官僚らによる建築確認の形骸化であり、限界耐力法導入によるシステムの破綻だった」と締めくくっている。

 本書が訴えた最大値のインパクトをもつ部分を簡単に上記したが、それにしても、あの壊されたマンションの住人たちやビジネスホテルのオーナーらはその後どうなったのだろうか?


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