宝石の歴史/パトリック・ヴォワイヨ著

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宝石の歴史

「宝石の歴史」 パトリック・ヴォワイヨ(薬学博士)著
監修者:ヒコ・みづの(ジュエリーカレッジ学長)
訳者:遠藤ゆかり(1971年生)
2006年6月10日 創元社より単行本初版
¥1600+税

 
 「地球にどんな宝石、貴石が出土しようと、それに関心を払うのは人間だけで、他生物にとっては何の意味もない」との冒頭の言葉は重く、皮肉にも、諧謔にも富んでいて、胸を打つ。

 宝石は貨幣の誕生する以前から商品の交換手段として用いられ、いつの時代にも重宝されてきた。欧州には宝石が出土しないために、かれらは植民地からもたらされる宝石に奇跡と聖的なものを感じた。

 (ユダヤ人は宝石を知って以降、虐待に遭遇すれば、小さくて価値の高い宝石や金銀をもって逃避するという習慣を身につけたと聞く。ユダヤ人が西欧で「守銭奴」と揶揄された背景は理解できる)。

 古代ギリシャやローマではトルコ石、ラピスラズリ、アメジスト、ジャスパー、カーネリアンが評価されたという。

 四大宝石といわれるダイヤモンド、エメラルド、サファイア、ルビーが認められるのは20世紀に入ってから。それぞれ、地球の圧力、温度、時間が創造する。本書はこの四つの宝石を中心とした解説に終始し、ガーネットや翡翠,、黒曜石などには触れていない。

 *最大のダイヤは南アフリカ産で、原石は3106カラット、カット後は幾つかに分け、最大が530.2カラット。

 *最大のルビーはミャンマー産で250カラット。最大のスターサファイアは「インドの星」と命名されたもので563.35カラット。

 *最大のブルーサファイアはスリランカ産で135.8カラット。

 *最大のエメラルドはコロンビア産、「イザベル女王」との命名をもつ石で、964カラット、手の平で覆いつくせないほどのサイズがあり、海の底の沈没船からダイバーにより発見された。

 それぞれの宝石が出土する土地は以下:

 サファイア: タンザニア、マダカスカル、ミャンマー、インド、スリランカ、オーストラリア、タイ、アメリカ

 エメラルド: コロンビア、ブラジル、南アフリカ、ザンビア、ボツアナ

 ルビー: ミャンマー、スリランカ、タンザニア、アフガニスタン、タイ、

 ダイヤ: 南アフリカ、コンゴ、オーストラリア

 本書では、他に、カット技術の変遷、南アでのダイヤ鉱床の発見と歴史、歴史を彩った有名宝石の伝説や謂れ、販売価格の記録、宝石の構造、マルコポーロの当方見聞録が報告したアジアの宝石などが紹介されている。

 また、各ページごとに宝石のカラー写真が惜しげもなく使われているため、読書を進める上で援けになるだけでなく、目を楽しませてくれもする。

 ダイヤの評価基準が「4C」といわれ、Carat, Color, Clarity, Cutであることは宝石に興味のある人間なら誰でも知っているが、ダイヤが無色透明を評価されるとしても、無色透明のダイヤは滅多になく、ほとんどの石には僅かであっても若干の色がつきもので、逆にはっきり色がついたダイヤが高価に取引されることもあり、ことに真紅のダイヤには20億円もの値のつくものが存在する。

 本書を読みながら、世界中の王侯貴族が身を、玉座を、宮殿を宝石と金銀で飾りたて、富裕度を誇ったことがわかり、そういう下種(げす)な趣味をもつ人に比べ、日本人はトップから庶民まで、宝石がなかったという実情があるにせよ、伝統的に奢侈贅沢に執着せず、簡素であり質素であることを旨とし、けばけばしい装飾を下品であるという感性に生きていた。アメリカの初代駐日大使だったハリスがタイの王様と比較し、日本の将軍があまりに質素なことに驚嘆したと、その滞在日記にも記している。

 見た目に「派手な」という観点からは、京都の金閣寺、日光の東照宮が挙げられるだろうが、海外の、とくに文明が世界のあちこちに栄えた時代、インカ、アステカ、マヤ、シュメール、ペルシャ、タイ、エジプトなどの王侯貴族が自らの体や宮殿を飾った宝石、さらには墓などとの比較ではほとんど Out Of Question。

 わが国では女性が好んで簪(かんざし)や帯留めに使ったのはサンゴ、鼈甲(べっこう)、翡翠で、サンゴはかつて土佐湾沖で取れたが、翡翠は(たぶん明治期以降、黒檀、紫檀、白檀とともに)中国から輸入した。鼈甲はタイマイという海亀の甲羅だが、今ではワシントン条約により捕獲禁止の対象になっている。サンゴ、真珠、オパールはいわゆる宝石ではないが、日本人の好きな宝飾品ではある。

 なお、私の知る限り、世界の宝石類の流通はユダヤ金融のもつシンジケートが牛耳っている。

 本書を通読して、人間の愚かさ、馬鹿さ加減が宝石の歴史のなかに一層顕著に現れることを知った。

 とはいえ、私個人は石には格別の魅力があると思っている。


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2 Responses to “宝石の歴史/パトリック・ヴォワイヨ著”

  1. withyuko より:

     日本には宝石はなかったですけど、秀吉みたいに金の茶室を作るとかいうとんでもないひともいましたよね?
     あと、ダイヤみたいにきらびやかではないけどヒスイやサンゴは昔からみんな好きだったのではないでしょうか?
     人間はどうして、食べられもしなければ役にも立たないただキラキラとキレイなものに心奪われるんでしょうね~。不思議ですね。

  2. hustler より:

    コメントありがとう。
    確かに、秀吉は例外的なヒトですね。育ちの悪さは貧しさからのものでしょうが、一種の背伸びじゃないでしょうか。好んだ女性もすべて貴族階級の女性だったですものね。
    Yukoさんのコメントを読んで、ブログ内容をちょっといじりましたが、石がもつ魅力は地中で圧力と熱によって長期にわたり熟成され、結晶化されたことから放たれる「なにか」だと思います。 

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