小説・田中久重/童門冬二著

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「小説・田中久重」  童門冬二(1927年生)著
副題:(1)明治維新を動かした天才技術者
   (2)からくり人形から蒸気船、鉄砲、電信機まで
   (3)モノづくりに命をかけた「東芝の父」の波乱万丈人生
2005年6月30日 集英社より単行本初版 ¥1700+税

 

 本書は表紙を見るかぎり、江戸末期に生まれた一人の技術者(東芝の創業者)の伝記である。

 当然ながら、東芝という企業を創立する上での礎となった技術大国日本の元祖ともいうべき一人の男の生き様を、江戸末期の世相を背景に活写する内容のものとばかり思って疑わなかった。

 冒頭の部分こそ、当時の社会情勢、周辺情勢、主人公の生い立ちや家庭事情、手がけた「からくり人形」などに触れていたものが、読み進むうちに、「空洞化」「マーケティング」「社会的ニーズ」「体系的知識」「虚業と実業」「差別化」などの江戸期には明らかにない現代の経済用語が洪水のように奔出、そのうえに教訓めいた、押しつけがましい作者の思考が続いて読者が判断する余地を奪ってしまい、伝記としての体裁を逸脱。

 実業家でもない作者が、さながら「ハウ・ツーもの」といった内容を書く姿勢が、いかにも賢(さか)しらげで、次第に不興をもよおし、読書を継続する意欲を喪失、途中で放り出してしまった。

 もし、内容が作者の自己顕示欲が先走るようなものでなく、伝記としての体裁を最後まで維持して書かれいたら、全く異なった印象の書籍になっていただろうし、逆に「ハウ・ツーもの」であることを表記していたら、それなりの受け取り方があっただろうと思われる。


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