少女/アンヌ・ヴィアゼムスキー著

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少女

「少女」 アンヌ・ヴィアゼムスキー(1947年生・フランス人/父親はロシアの貴族)著
原題:Jeune Fille(若い娘)
訳者:國分俊宏
2010年10月10日 白水社より単行本初版 ¥2400+税

 

 本書の帯に「小説か、実録か?」との問いがあり、「まだあどけない女子高生が、老齢の監督に導かれるままに足を踏み入れた、眩いばかりの未知の映画世界。フランス映画界の伝説的女優が描く、傑作「バルタザールどこへ行くの舞台裏」という刺激的な広告がある。

 「バルタザールどこへ行く」という映画はフランスで撮られた映画で、監督はロベール・ブレッソンという63歳の男性。監督に一目惚れされて抜擢されたのが本書の著者、当時、17歳のアンヌ・ヴィアゼムスキーという名の少女だった。

 クランクインが始まる前、監督の前作の映画を二人で見に行ったときのことをアンヌは以下のように描いている。

 「席にすわると、彼は私の手を握ってきて、映画の説明を始めたが、彼の視線が映写された映像を離れて私の方に向けられていた。気づかないふりをしていると、彼の手が私の手から離れ、優しくそっと手首やニの腕を撫で始めた。私は困惑し、身を固くした。相手の顔が近づいてきて、唇が私の頬をかすめた」。

 これが監督によるセクシャルハラスメントともとれるアンヌへのアプローチの最初。

 「映画のロケが始まって、夜、家まで送ってくれる監督は車を止めると、顔を私の顔にゆっくり近づけてくるのを気配で感じた。彼の唇が私の頬に触れ、口に近づいたとき、それを避けるために急いで車のドアを開けて飛び出した。このところ、私たちが別れるときにはよくこんなふうになった。そのたびに、気まずさが増した」。

 監督のヴィラに招かれて、同じ家で過ごすようになり、猫が二匹いて家を管理している夫婦が一緒で食事の用意をしてくれた。

 食事が終わると、庭を散歩しようと誘われる都度、習慣になってしまったように、監督は私の体に腕を回してき、私が突然身震いしたとき、彼は驚いて「寒いか」と、肩にかけていたカシミヤのセーターを私の首に巻いてぎゅっと抱きしめてきた。

 「かわいい子だ」といいつつ、彼の唇が私の唇を探し、それが耐えられず、私は彼を押し返した。彼は辛そうな様子で私をみつめた。

 同じ状況が翌日の夜にもくりかえされ、その週のうちに何度もくりかえされた。初めのうちは私の腕をとり、手を撫でたり、おでこや頬にそっと触れるだけ。それから不意に立ち止まり、私をみつめる。そして、私に口づけしようとする、あの嫌な瞬間がやってくる。私は心の底から誠実にそれを受け容れたいと思っていた。彼がしたいと望んでいることをさせてあげたいと。

 そうしたところで、おそらくキス以上のことには発展しなかったはずだ。けれども、彼の唇が触れるだけで、顔をそむけてしまった。彼はしつこくは求めてこなかった。ただ、あまりに不幸せそうな様子で私を見つめるので、私は自分の罪のように感じてしまうのだった。

 撮影が終わりに近づき、アンヌは高校にもどって勉強をしなければいけない日程が近づくにつれ、長かった監督との接触過程があったからこそ学べたこともあり、大人の女性に成長する上でのあれこれを身にすることができたことを自覚。と同時に、あと僅かで撮影も終わることを意識すると、急に寂しさが身に沁みてくる。

 だから、監督が勝ち誇ったような仕草をし、車を降りてき、ベンチにすわる私の横にすべり込んできて、「3週間だよ、あと三週間、君は私のそばにいるんだ!時間も君も両方手に入れた」という話をし、「君のお母さんも、高校の先生も了解してくれた。うれしいだろう?」と言われたとき、私は何も考えず、すぐに彼の首に飛びついて腕を回し、肩のくぼみに顔をうずめた。

 そのとき、彼は彫像のようにじっと動かなかった。私たちは二人とも心安らかで、鳥たちの最後の歌や、沈みつつある日の光や、小道の上でだんだんと大きくなっていく木々の影にじっと注意を向けていた。私たちの呼吸はぴったりと一致し、心臓までが同じリズムで鼓動を打っているように思えた。

 「そばにいられて、本当に幸せだったわ」と私がいうと、彼は私を抱き寄せ、両腕の中に強く抱きしめた。まるで答えを探しているかのように、何秒かが過ぎた。それから、重々しく、私の目をまっすぐに見つめて言った。「私もだ。君のそばで過ごして私は...。君の若さのおかげで私まで若くなった。何度も君と同い年になったよ...」

 アンヌが主演を果たした映画は1966年にフランスで公開、日本では1970年に公開されたが、アンヌ自身は女優を続けながらも、作家としてのキャリアも重ねる。

 上に記した監督との微妙な男女関係を偲ばせる話の密度は上記した以下でもなければ、以上でもないが、内容がノンフィクションであるか、フィクションを混在させたかは、作者以外は知らない。

 正直に感想をいうなら、文章づくりはあまり上手とは言えず、書こうとする内容は一見エロチックで、一種ロリータコンプレックスのような雰囲気があるが、そういう場面に集中して筆を運んでいるわけではなく、筆の赴く対象があちこちに飛ぶこともあって、散漫な印象は拭いようがない。

 惹きつけられる部分もありはするが、全体的にはかなり退屈。


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