幻の漂白民・サンカ/沖浦和光著

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sanka

「幻の漂白民・サンカ」 沖浦和光著  文春文庫

 「サンカ」という言葉を子供のころに耳にしたことがあり、神秘的なものを感じた記憶がある。

 それが本書を手にさせた動機だが、真実はきわめて想定可能な、まともな因果関係のもとに存在したことを知った。

 「サンカ」とは「山家」と書くのが正解らしいが、賎民の一種。なぜ賎民の仲間入りをしたのか、なぜ山野を駆けて生活するに至ったのか、生活の内容はどうだったのか、などを本書は明らかにする。

 本書の著者以前に、民族学者や作家が「サンカ」について書いており、一般に固定した観念ができあがっていたため、著者は誤解や誤謬を避け、かつ排除すべく全国的な踏査、聞き取りを事前にくりかえした。

 結果、わかったことは「サンカ」といわれる人々は19世紀末(江戸時代の末期)、天明、天保にかけて起こった大飢饉のあと、被害に堪えきれず、農地を棄て、山に入った。自然さえ知っていれば、山、野、川はかれらを飢えさせなかっただけでなく、税を取られることもなかった。

 明治に入って戸籍法が制定される。納税、教育、徴兵の三大義務を国民に課すことが狙いだったが、江戸時代の人別帳からはずれたり、漏れたりしていたため、新政府はいわゆる賎民、非民のチェックをはじめる。1871年の日本の全人口は3311万人だったというが、漏れていた人間もいただろう。

 戦後の高度成長の間に、そうした人々は一般国民に吸収される形で姿を消した。

 それにしても、かつて、この国に「差別用語」が山のようにあった事実にあらためて驚愕した。

 たとえば「夙(シュク)の者」「ササラ」「鉢叩き」[茶筅」「クグツ」「川原乞食」「革田」「ミナオシ」「ミツクリ」、挙げれば切りがない。人が人を下位に見ることで優越感をもつという人間の性悪さをよく表している。

 われわれはそういう時代が現にあったことを忘れてはなるまい。

 本書が労作であることはいうまでもないが、「サンカ」が何者であったかを認識できたことはありがたかった。


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