座して平和は守れず/田母神俊雄著

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「座して平和は守れず」  田母神俊雄(1948年生/元自衛隊航空幕僚長)著
2009年5月25日 幻冬舎より単行本初版  ¥952+税
帯広告:(1)世界はみんな腹黒い、アメリカも国連も役立たず
    (2)核ミサイルを撃ち込まれても「戦争放棄」するのか、お人よしの国、日本
    (3)日本も核武装すべきである

 

 著者は過去の戦争歴史に関する論文を書き、「日本は朝鮮半島や中国に侵略行為をしていない」と発言して物議をかもした人。

 言い分を聞いてやろうとの気持ちで本書を手にした。はっきり言って、著者の言い分は私が過去に本ブログに記述してきたことと相似する部分が多く、この人物がそれほど大それたことを考えていたのではないことを知った。

 私の意見と重複する部分も含め、以下に書きとどめておくべきことを列記した。

1.日本の国防費は毎年5兆円、かつてはそれだけでも中国、韓国の軍備をはるかに凌駕していたが、今日ではアメリカ、イギリス、フランス、中国に次いで世界第五位に低落。

2.外国の軍隊が「それだけはやるな」という「禁止規定」で動くのに対し、自衛隊は「それはしてもいい」という行動の根拠が与えられないと行動できず、これを「根拠規定」という。

3.イラクで日本大使館の人間が二人殺されたときですら、自衛隊であるがゆえに、即座に現地に兵士を派遣することができなかった。つまり、自衛隊は海外の日本大使館や領事館、館員を守ることが許されていない。

(海外にいるすべての日本人に対しても同じことがいえる。大使館や領事館などはなんの役にも立たない)。

4.ことが起こった場合、臨機応変に即時に対応できなくては、軍隊とはいえず、実際に突発的にことが起こった場合、自衛隊にどうしろというのか。「武器を使うのは正当防衛と緊急非難の時のみ」となっているが、これでは警察と変わるところがない。

5.集団的自衛権とは同盟国が攻撃されたり、戦争状態に入ったら、相手国からの武力攻撃を阻止、排除する権利である。集団的自衛権が行使できない状態で、安全、治安を敵の侵略から守ることは困難。

6.政府も国民もメディアの影響もあって、国防の意識があまりに低い。(過剰に低い)。

7.軍人はモラルの高い存在であるべきであり、国民からリスペクトされるべき存在である。でなくして、自国を命がけで守ろうとする意欲、意志に結びつかない。

(それにしては、自衛隊員に覚せい剤の使用、飲酒運転、など、世間を騒がせる低劣な報道が多すぎる)。

(一度など、中国人女性を妻とする自衛隊員がインターネットから情報を盗まれたなどという醜聞が流れたが、こういうことではアメリカですら日本人には外交秘密を漏らせなくなってしまうだろう)。

8.日本の外交には迫力が欠けている。アメリカの言に従っているだけ。高額な兵器もアメリカに買わされ、現地に兵士を出さないのなら金を出せとの指示に唯々諾々と従ってきた。

(質の良い兵器は、現実として、ほとんどがアメリカ製である)。

9.日本は平和憲法に縛られ、武力を行使しない国だと思われていることは、世界中で舐められていることと同義。そういう国だからこそ拉致もされたし、拉致問題の解決もできないでいる。

(アメリカの戦後日本処理は日本と日本人を骨抜きにすることにあったが、その意図はきわめて効果的に運ばれ、今日に至っている。ただし、朝鮮戦争が始まるまで)。

10.自国にとって利益の一切ないことで、他国のために血を流すバカはいない。アメリカが日本に代わって、拉致問題を解決してくれると期待するのは甘すぎる。

11.核保有国と非保有国とでは対等な外交交渉はできない。外交交渉において、軍事力と発言力は比例する。

(全く、その通り。この理屈の解らないアホが日本の政治家に多過ぎる。「てめぇの国はてめぇで守る」のが鉄則であり、世界の常識。永世中立国のスイスですら自国を守る軍事は放棄しない)。

12.アメリカの国力は依然として強力だが、頂点を越え、今後は衰退し、世界は多極化する可能性がある。日本のアメリカ依存の姿勢そのものを再考するタイミングにきている。

13.かつて、アメリカが「ハル・ノート」と称する最後通牒を日本に突きつけ、無理難題を迫ったのは、日本を太平洋戦争に引っ張り出すという目的があったからだが、そのハル・ノートを作成したのは、ときの大統領ルーズベルトの側近にいたハリー・ホワイトで、この男はなんとソ連のスパイだった事実が戦後半世紀以上が経って公表された。男は1948年にFBIスパイの告発を受け、その3日後に自殺している。

14.現在、地球の周りには3千個の衛星が回り続け、なかに地球の自転にあわせて、赤道面だけを西から東に3万6千キロの上空で回る静止衛星があり、気象、通信に関する情報を提供するが、3千個の衛星の目的は平和利用より軍事利用の方がはるかに多い。

15.戦闘機は劣化予防費が莫大。飛行燃料費の5.5倍かかる。

16.自衛隊は国産のクラスター爆弾を相当数所有している。理由は、日本は島国で海岸線が長いことがあり、これを守るためにはクラスター爆弾を所有していることが有効だからだ。仮想敵国に対する有効な牽制力、抑止力になっている。この爆弾を廃止することに同意した外務省は実態把握に疎い。(だけでなく、日本を取り巻く周辺国、中国、ロシア、北朝鮮などの悪辣さに認識していない。要するに、外交の本質を知らない)。

17.アメリカの湾岸戦争白書には「この戦争では日本の先端技術のおかげをこうむった。8万の兵士を送り、ともに血を流したイギリスの貢献よりも数十倍評価すべきだ」とある。これは「ピンポイントミサイル用の半導体、垂直上昇型の戦闘機の主翼と胴体を繋ぐ合金も日本の技術でしかつくれないことを示している。

18.大戦後、アメリカは日本に戦争の罪悪感をインプット、日本社会に自己破壊装置を埋め込み、日本人はアメリカ人が想像する以上に、アメリカの術索にはまって、感情や同情で平和維持が守れ、国が守れるかの錯覚を抱くようになった。(アメリカが当初狙った「日本人骨抜き作戦」がほとんど100%功を奏したのは事実だが、朝鮮戦争が終わり、東西冷戦が始まってからは「やり過ぎだ」ことを反省しているだろう。ドイツのように戦後まもなく与えられた憲法を棄て、みずからドイツ憲法を作ったような姿勢は日本にはなかった。「平和が好き」と言っている社民党がその代表、平和が好きと言って平和が守れるほど、世界は甘くない)。

19.東京裁判は勝者が敗者を裁いたという、世界に前例のない裁判だった。にも拘わらず、ほとんどの日本人はすべて公正な裁判だったと受け止めている。

20.市民を戦争の犠牲にするのは基本的に国際法違反だが、東京大空襲にしろ、広島、長崎への原爆投下にしろ、明らかに国際法違反。(アメリカ、イギリスはドイツ国土にも同じことをやっている)。

 以上のほかに、作者が引退するきっかけになった論文、「日本は朝鮮半島の併呑にも、中国へも侵略していない」との意見には異論がある。朝鮮人を公平に扱ったと言っているが、そんなことはない。日本人は朝鮮人を、イギリス人がアイルランド人をバカにしたようにバカにしたし、だからこそ時の日本人総督が暗殺されてもいる。

 ただ、中国が日本の侵略や重慶攻撃を誇大に主張し、教科書にも日本軍のひどさを書いているのは事実だが、それなら日本軍よりはるかに酷薄な仕打ちをしたロシアやイギリスに関して教科書はどう書いているのかという疑問はある。ロシアは黒竜江以北を中国の領土を含め自国領として取ってしまい、イギリスは二度のアヘン戦争で香港、九龍などを長期租借した。

 さらに、本書の中には、著者の大写しの写真が何箇所かに挿入されているが、これは全く余計なことで、読者を不快にさせるだけだ。何度も御目にかかりたいツラではない。また、自衛隊の組織の解説や隊内における教育についての説明も余分なのではないか。平和ボケしている日本人の対外感覚の間違った理解や、誤謬に関してもっと突っ込んで書いたほうが本書の筋に合っているはずだ。


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