恋ぐるい/諸田玲子著

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恋

  「恋ぐるい」  諸田玲子(1964年生)

   集英社  2006年8月文庫化初版

 本書は江戸期(18世紀)に生をうけた天才、平賀源内と野之(のの)の恋物語を、源内と野之の両面から書いた内容で、平賀源内を書いた著作としては新しい試みといえるのではないか。

 平賀源内に関しての知識といえば、本草学の大家で、エレキの発明者であることくらいしか子供の頃は知らなかったが、本書によって天才ゆえの奇矯な言動の多い人物であり、自己顕示欲の塊であり、「あとがき」を書いた田辺聖子は「自尊心の肥大」という言葉で表現している。

 同時代、前野良沢、杉田玄白などとも親交があり、もとを糺せば、高松藩の薬草を研究する立場、身分であり、藩主から可愛がられたにも拘わらず、みずから上下関係や同僚のやっかみなどにうっとうしさを感じ、離藩し、江戸に出、その折に同伴したのが野之という下女と、その父親だった。

 不可解なのは、己が封建的な仕組みを嫌悪し、自分を縛るものを排除して江戸に出たにもかかわらず、天下の平賀源内が下女を愛しながら、下女風情を女房はおろか、情婦としても認めないという姿勢を貫く点であり、矛盾に満ちた自分勝手な所作に思え、ために平賀源内という男への関心が希薄になった。

 時系列を変えながらの展開はそれなりに成功しているが、全体的に文章が多すぎるきらいがあり、かつ、年号を江戸期のものをそのまま使っているため、時期的な把握に苦労した。全424ページは長すぎるという印象だった。

 現実の平賀源内は山師の傾向が否めず、鉱山、金山などの発掘を行なったり、炭焼きをやったり、戯作を数多く書いて収入源としたり、長崎まで出かけて翻訳を依頼するも断られたり、四六時中動き回っていた感があり、

慕ってくる者、ころげこんでくる者を拒絶せずに面倒をみるなど、周囲からちやほやされ、話題の中心になっていないと落ち着かず、そのために本業であるフィールドへ専心することができなかったきらいがある。

 ただ、本書の示す史実がどこまが真実で、どこからが空想なのか、不分明であり、そのあたりに若干の苛々が脳裡に残った。


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